L.O.S
 [1]






女は困っていた。
何も話が浮かばないからだ。しかし、書かなくてはいけないのだ。
ガーン、ガーン、ガーン・・・。女の頭は真っ白だった。しかも幻覚まで見えてきた。
そして、光につつまれる―、見たことのない世界が広がっていた。


「・・・花・・・?」


一面の花畑だった。赤や黄、ピンクはもちろん、珍しい青の花々もある。
―花なんて、久しぶりに見たわ。―
女はそう思った。


「おい女、お前どこから来た?」


そう、とてもいい気分だった。この変な男に会うまでは。



「・・・へ?」


ぼぅっっとしてたので、ずい分間抜けな返事をしてしまった。
相手もそう思ったらしく、フッと、生意気に笑った。


「まったく、呑気な奴だな。なんだ、その変な服は?」


それは私のセリフだ―
女はそう言いかけそうになった。そして改めて男を見る。


「げ」


― 何、何、何!!!
女は叫ぶ。しかし、声にならない。



「何だ、女」
「・・・っ!」


―中世ヨーロッパもどき?!
その男はまさに、絵本から引っ張り出してきたみたいなヨーロッパ貴族の格好を していた。
髪は短い茶髪で、瞳は深緑色だ。その顔立ちからもして、どう見ても日本人では ない。
まあ似あってはいるが・・・。


「・・・コスプレ・・・、マニア?」
「ん?それがお前の名前か?」


―これが正気ならどうしよう。
本気で女は不安になってきた。
「ほら、コスプレ・マニア。そんな姿、サーカス団だってしないぜ」
「ちょっと待って!コスプレ・マニアはあなたでしょう?」
「・・・正気か?」
「・・・」


こいつ、本当に正気かも。
それどころか、自分が正気でないように見られている。


「・・・冗談に決まってるでしょ。いいわ、私の名前はマニア・コスプレ。マニアの方が名前よ」


ほとんど投げやりに女は言った。言いながら自分で思った。自分は正気だろうか。


「ん。いい名前だな」
「そりゃどうも。それでここは?そしてあなたは?」
「お前、少し変わった奴だと思ってたら、、本当に変わってんだな。俺の名前はティオール。ティオール・デス・ラ・ヴェザール・ディオランデだ」


―コスプレ!!


「あの〜、今日はもしかして、コスプレ祭??だから私、ういているのね!さすがオタク大国、ニッポン・・・!」



「ニッポン?ここはヴェザール城の庭だ。」


コイツ、どこまで猿芝居を続けるつもりだ?


「前の国はニッポンというのか?聞いたことがないが、お前の名前の祭りがやってるとはな・・・」



―?????―


「…ちょ、ちょっとまってよ。本気で言ってる?」


女は狼狽した。この男より自分の方が、もしかしたらこの世界にズレているのではないだろうか…。


「・・・ああ?本気も何も事実だぞ。少なくとも、ここはお前の言うニッポンじゃない」
「え・・・」


マニアは辺りを見回した。


「しろ…城?わたし、たったさっきまで部屋で原稿に囲まれていたのに!」


マニアははじめて我に返った。そうだ、私、何でこんな所にいるのだろう。
なんでマニア・コスプレという名前なんだろう?あれ、私の名前が思い出せない…


「・・・、ゲンコーだかなんだか知らんが、お前、この世界の人間じゃないみたいだな」


男が鋭く言った。


「早く気づいてよ!」


この馬鹿、アホ!・・・・と続けたくてすぐに飲み込む。


「まあいいか、ほら、ついて来い」


ティオは手を差しのべた。











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