L.O.S
 [2]






掴んだ手は、女をすこしだけ安心させた。そして彼について歩いてゆくと次第に城内の奥までやってきた。
麗しきコスプレ仲間・・・もといメイドたちが男の隣にいる自分をみて驚き、そして男に礼をしていく。


「あなた、偉い人?」


堪らず男にきいてみた。


「ん?ああ」


意外にそっけない態度だ。


「ああ、じゃなくて・・・。どういう身分の人なの?あなた・・・」
「あー、一応、この国の王子だ」
「・・・」


え、


「ええええっ、それ本気でいってるの!?」


まわりのメイド達がザワザワしはじめた。どうやら、マニアについてのことらしい。


「ほ〜ら、これでわかったろう?一応こういう場では、言葉を慎めよ」
「あーもう・・・悪かったわ…じゃなくって…申し訳ございません王子さま」


に、と意地の悪い笑みをみせて王子は「よろしい」と言う。おもわず王子の足をけった。
よし、メイドには見られていない。


「で、私をこれからどこへ連れて行くつもり?」
「…………ああ、それはな・・・」

「おい、この者新入りのメイドではないか?」


マニアは城の隅の、誰も気づかないような扉のなかに連れて行かれた。


「ちょ、ちょっと…どこここ?」


すると女を連れて行った兵隊らしき服をきた男は女をにらみつけた。


「ただの庶民が、軽口を叩くな」


ただの兵隊のくせに!とはいえない。が、女も負けずに睨みつけた。


「それでわたしはどこに連れて行かれるのしょうか…」


男はゆっくりと口をひらいた。まるで恐ろしい言葉を言うように――


「お前は、ここでメイド見習いとして働く。まあ、しごかれることだな」


男は、投げるようにマニアを、扉の中に突き出し、そして荒々しく扉を閉めた。
段差につまづき、マニアが転んでいると、巨大な足が、マニアの目の前にあった。
それは―、丸々と太っ、いや、体格のいい、40くらいの年の女が立っていた。


「おまえが新入りだってねぇ…うふ」


恰幅のいい女はうっとりと言った。声は地響きのように女の体に響き渡る。ねっとりとした喋り方にマニアは気味の悪さを感じた。


「あ、あの――」
「心配和要らないのよぉ……さぁこれを着るの」


それは、アキバが好むような、まさしくメイドッ!!な服ではなく、普通の、エプロンとスカートの服だった。
マニアは内心、ほっとした。


「…す、すいません、私っ、マニア・コスプレと申しますっ。よろしくお願いしますっ!」


マニアはほとんど反射的に言っていた。


「あらあら、いいのよ、そんなかしこまらなくて。さあ、あなたのお部屋はこっちよ」
「は、はいっ」


マニアはその大柄な女性についていった。よかった――、ここでは下手な口を利かないほうが一番だ。
「って……え……」 しまった!下手な口を利かないでおこうと決めた矢先にこれだ。しょうがないとしか言いようがない。
メイド長が女の部屋だといってあけた扉の先に、酷すぎる光景がまっていた。
―なにあれ、AMAZU人形?蜘蛛もいる!!なんでこんなにこの部屋だけボロボロで汚いの…


「うふ」
「め、メイド長…?」
「王子に付入ろうたって、あんたじゃ100年早いのよ。あんなに仲良く喋っちゃって、あんたなんかここで十分」


動揺するマニアに、長は、先ほどの台詞とは、結びつかないような顔で、メイド長は言う。



「そんなに心配がらなくてもいいのよ、この部屋には先客がいるわ、あなたのルームメイトよ」
「え・・・?」


覗いてみると、そこには、赤毛でみつあみの少女が、うずくまって、ぶるぶる震えていた。


「おねえちゃんもここに住むの……?」


女の子はか細い声でいった。


「そうよグレイシア。ほら、自己紹介してあげて」


メイド長は朗らかに言った。
―この二重人格め!



「はじめまして、グレイシアちゃん。わたしの名前はマニア・コスプレ」


グレイシアがにっこりと笑った。


「よろしくね…マニアさん」
「それじゃあ、布団とかの場所は、グレイシアにきいといてね。よろしくね、グレイシア」


長は扉を閉めた。扉を閉めると、光は小さな窓からだけで、いやに暗くなる。


「・・・、グレイシアちゃん。掃除用具の場所は知ってる?」
「・・え・・・?」


グレイシアは、いきなり何を言い出すのかという顔で、きょとんとしている。


「・・・、掃除よ、掃除。あの二重人格女を、あっと言わせてやるわ」
「・・・わたしも、手伝う」


グレイシアが愛らしい笑みでもってそういう。思わずマニアはぎゅっと抱きしめた。


「かーわーーいいーー」


―作品に使えそうだわ…。
おっと、いけないいけない。職業癖が思わぬところででてしまった。


「マニアさん、まず着替えて?」
「わかったわ」



部屋の隅にいって着替える。壁の隙間から虫がわいてきて、ぎょっとし冷や汗が出る。


「掃除用具の場所は、ここから左に曲がって一番奥です。案内しますよ」


マニアが着替え終わると、グレイシアはそうささやくような声で言った。



「ありがとうね」


マニアとグレイシアは奥へ奥へと進んでいった。周りは他のメイドの部屋だ。
扉を見ただけでも、自分たちの部屋が、どれだけみすぼらしいか分かる。
歩いている途中に、メイドの扉が開き、中から出てきたメイド達と目が合った。
――うわ・・・。――
まるで汚い物でも見るかのような、軽蔑しきった目だ。


「あぁら、新入り。あなたが立ち入れる場所じゃなくてよ?」


高飛車な、いかにも気の強そうな女が言った。


「あ、あの…掃除道具を…と、とりにいきたくて…」


グレイシアがあまりにも儚くいう。なにもできなくてごめんね、とマニアはグレイシアの手を握ってあげることしか出来なかった。


「まあ!この薄汚いネズミちゃんまでいる」


前歯二本が見事に銀色の女がみすぼらしい笑みをもってそういった。


「グレイシアちゃんをいじめないで!」
「何よあなた、新入りのくせに、楯突くつもり?」


高飛車女は、さらに言い寄ってくる。


「だいたい、普通のエプロンのメイドは一番下なのよ?それを分かってるつもりで言ってるの?」


マニアは女達のエプロンを見た。うわあ、これこそいわゆる、アキバ系。


「すみません。確かに、そんなきれいなエプロンじゃ、汚すのがもったいないですものね。 そんな汚せないようなエプロンじゃ、この子の半分も仕事をしてないんじゃないかしら?」


女達の顔が、みるみる赤くなっていく。


「なんですって!!下っ端が、よくそんな口きけるわね!!」


高飛車女の鋭いビンタが飛んでくる。


マニアは目を瞑った。―これは、さけられない!―











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