L.O.S
 [6]






「へー」マニアはおもいきり、まぬけな声を出した。
「外ってこんなんなんだぁ〜〜」
「・・・ここを抜けるんですか」グレイシアが、珍しく不機嫌な声を出した。
「しょうがないがろう」
ティオが言う。
そこは、人であふれかえっていた。見渡す限り人、人、人。
そう、ここはヴェザ−ル城の城下町、プレデントだった。
「もっとこの町を通らないような出口はなかったの!?」
「しょうがないだろっ!今戻ったら、追っ手が待ち構えているぞ!?」
ぎゃんぎゃんと言い争う二人を、グレイシアはくすくすと笑って見ていた。
「まあ、人がたくさんいれば、混じってわからないだろうしな」
人ごみを掻き分けながら、ティオは言った。
「それにっ、お前の世界のことやっ、なんでお前がここに来たのか、調べなきゃいけないしっ」
「えっ・・・?」
目をぱちくりさせなせていると、ティオがふ、と笑った。
―不覚にも、かっこいいと思った自分を誰か殴ってくれたらいい。寝不足で頭がおかしいに違いない。
「―マニア、自分の世界に帰りたいだろう?」
「…え、ええまあ・・・」
不思議と、帰りたいなんて思ったことはなかった。それどころか、この世界にどんどん適応していっている。
「お前には、あいつと同じ道をくりかえしてほしくないんだ」
陰る男の顔なんて、見なきゃ良かったとマニアは思った。彼は見た目よりもずっとずっと深く後悔しているに違いない。
自分の婚約者を、死なせてしまったことを。
「さー、行くぞ〜」さっきまででは考えられないような声色で、ティオはどんどん先へ進んでいった。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」マニアは慌ててティオの跡を追った。
さっきとぜんぜん態度が違う。その代わりように、こっちがついていけない。
「無理していらっしゃるんですね・・・。」グレイシアは、マニアの後ろで、ポツリと呟いた。

 
「それにしても・・・、どこから調べればいいのか・・・」
ティオは手をあごにあてた。
「馬鹿ね、こういう時は、まずあそこにいくのよ」
マニアはここぞとばかりに声を大にした。
「・・・あそこって・・・?」
グレイシアが後ろからつぶやく。
「一部の場所に、たくさんの情報が集まっている場所。これでも一流のモノカキよ、これくらいは常識ね」
少しほこりっぽい、色んな時代の物語が、つまっている所。
そう、そこは図書館だった。
「そうか…それはいいな」
ティオは感心したように、そういった。
グレイシアも「いいですね」と同意する。問題は、そこが何処なのか、だった。
「で、図書館は?」
「――俺に判るわけないだろう」と、ティオ。
ごめんなさい、ちょっとわからないです」とグレイシア。
頼りない二人に不安になるマニアだった。
「じゃあもう手当たりしだい、誰かに聞きましょう」
「そうですね」
「そうだな」
聞きこみをし、図書館は、町の中心部から少し離れた、東北の方にあると分かった。
いってみるとそこは・・・。
「しずか・・・」
図書館というのはもともとそうだが、足音も立ててはいけないほどの静けさだった。
グレイシアはともかく、ティオとマニアは、あまりそういう場所になれているタイプではない。
周りの来客たちは、博識そうな者や、ローブを深めにかぶった、怪しげな人々が、黙々と本を読みふけっていた。
(うあーーー・・・)空気に圧迫されているみたいで、マニアは辛くなってきた。
「で、どこを探すんですか?」グレイシアが(元々だが)霞のような声で言った。
「そうだなあ・・・、新聞などの、事件を集めたような本がいいかもしれない・・・」ティオが提案した。
「オーケー。探しましょ!」三人は、分かれて探すことにした。
「――えーと…異世界についての本を探さなきゃだめなのよね」
小声で自分自身に確認する。はたからみブツブツいっているマニアは変人だった。
「あった!……て違うわ。なによ”AMAZUの不思議?”」
間違って手に取った本は、変な香りがした。思っきりかんでしまったマニアはう、と鼻を押さえた。―これは、臭い。地下通路並みに、いけない匂いだ。
「”正しい細胞学?”…”陰湿ないじめの始め方?”…もっとちがう。…”王室の不思議百科”…これはちょっと気になるわ…」
どう探してもお目当てのものは見つからなかった。泣き言はいっていられない。それにしても広すぎるくらいの図書館だ。
「はぁ…」
おもい空気に疲れたころ、やっとひとつだけそれらしき本をみつけた。嬉々としてそれを手に取り、その表紙を開いた。
「―当たった。これだわ」
やっと見つけた本は、「世界の怪事件とそれについての考察」だった。今までのに比べれば、マシな方だ。
これなら、異世界に関する事件か何かが、載っているかもしれない。
マニアは目次を開いて、指で字をおった。
「1・海からなぞの死体、知られざる深海の生物、2・相次ぐ家畜の失踪、怪物の仕業か?3・砂地に描かれたなぞのマーク・・・、やれやれ、オカルトね。私の世界とぜんぜん変わらないじゃないの・・・」
マニアはひとり言をいいながら、目次を探し続けた。
「あっ、」
“26・異界からの使者か?突然現れ、未知なることを喋る人々”
「これだわっ」マニアはさっそく、そのページを開いた。


”彼らは、突然、前触れもなくこの地に降り立った――” 書き出しは、まるで物語のよう。マニアは心をわずかに躍らせながら読み進めていく。
”謎の衣装。そして戸惑った行動。彼らは口々に言う。「――え、コスプレ?」と。まずひとこと言わせて欲しい。これから記述してあることはすべて事実である。”
―やっぱりこの世界にきて思うことはみんな同じなのなのね…コスプレ?の部分で思わず溜息が出た。
横道にそれそうになったところで気を取り直し、事実であるらしい本文へ入ることにした。


ごくり、と息を呑む。













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