L.O.S [7]“彼らの出現地や、格好、年齢などは、調べで全て、不特定であることが分かった。 これまでの例は、場所は農村や、海辺、中心街、年齢は子供や大人、性別も問わなかった。 ―しかし、関連する事もある。それは、出現する時であった。彼らは決まって、10年ごとに、私達の世界に姿を現すようだ。そして、出現する数も、年をおうごとに、多くなっている。 マニアは下の表があることに気づいた。それは、年ごとの彼らの出現人数を、書きあらわしたものであった。 朱暦593年―1人 朱暦603年―1人 紅暦002年―3人 紅暦012年―5人 紅暦022年―6人 マニアは胸騒ぎがした。これだけの人数がいるというのも驚いたが、何となく、気分が悪い。 ―彼らは向こうの世界とこちらの世界を混同して、混乱しながら喋るという。 彼らの話は周囲にすればただの冗談、あるいは狂言にしか聞こえないが、もし彼らの話が本当だとすれば、彼らの住んでいた世界はここよりもとても便利ということだ― マニアは、それからの数ページを、ほとんど飛ばして読んだ。 ―しかし、彼らの記憶は、時が経つごとにおぼろげになり、まして、自分がどうやって来たのかは、誰も覚えていないのだ― 「!!」マニアは衝撃をうけた。確かに、私どうやってこの世界へ来たの―?覚えていない。 それに、こっちの世界に適応しすぎて、向こうの事はあまり、気にしていないような気がする。 ―時間がないのかもしれない。マニアはそう、直感した。 私と同じだ―。でも、新しい事は何も書いてはいない。 最後のページには、こう書いてあった。 “彼らの所在は、彼らの生活を侵害しないためにも、明かすことはできない。これからもし、新しく向こうからの使者が来たら、ぜひ接触してみたいものである。” その文章が、マニアの心を突き動かした。気がつけば、本を片手に、ティオとグレイシアを探していた。 「―お願い、来て。もう出ましょう」 丁度よくふたりは一緒にいたようだ。そしてマニアのいつものとは違う様子に、黙って外へ出た。 「何かあったのか?」 ティオが戸惑った様子で聞く。そしてマニアの片手にある本に気づいて「なにか見つかったんだな」と言った。 「―ええ。…わたし、前の記憶がなくなってるの!!!早く帰らなきゃ、全部忘れちゃう!どうにかしてよ、早く返してよ…」 恐ろしいことに、もう何故帰りたいのかも、自分が元の世界で何をしていたかも記憶が薄れてきた―。 「落ち着けよ・・・!」ティオはマニアの手をつかんで言った。 「だってっ・・・、だって・・・!」マニアはほとんど興奮状態だった。言いたい事がうまく言えない。 「おちついてください、マニアさん。その本に何が書いてあったのか、みせてくれませんか?」 グレイシアはやさしい声で、マニアにささやきかけた。マニアは近くのいすに座り、数分後、やっと落ち着きを取り戻した。 「・・・ごめん、私、どうかしてたわ」 マニアはそういうと、その本を開き、話を二人に聞かせた。 「・・・そうか」ティオはまた、深刻そうな顔をして、考えるしぐさをした。 「とりあえず、この本を書いた作者に、あってみる事にしないか」 「そうですね、そうすれば、他の、この世界に来た人たちとも、会えるかもしれません」 グレイシアもうなずいた。 「それじゃあまず、この本の著者のことについて調べ・・・」 マニアがそう言って立ち上がろうとした途端、ティオはマニアの腕を強く引っ張った。 「ぎゃっ」 「外はもう夕方だ。今日は宿をとって、休んだ方がいいだろう」 「うわー…」 すっかり冷静になったマニアは、今夜泊まるであろう宿を見上げて感嘆の声をあげた。元の世界でも、こんなところにとまったことなんて無かった。 コテージのように家庭的で尚且つ、家のつくりが可愛い。花柄を貴重とした外面はメルヘンの世界にはいったかのようだ。 「あ・・・わたしお金持ってない」 「あの…わたしもこのような所に止まれるほどお金は…もってないです・・・」 女ふたりがややいいずらそうに告げたのを聞いて、ティオは頼もしく笑った。 「おいおい、俺が誰だ知ってるのか?―この国の王子さ。金ならあるし、俺が泊まっていることも黙って貰えるようにするくらいの余裕はある」 ―そうだ。そうだった。今更ながら、彼が王子であることを再認識した。 「それじゃ、入るか」 辺りはもう暗くなりつつあった。ティオがレディファーストさながらに二人のために扉を開ける。隙間から暖かな光が漏れてきた。 「うわあ、ふかふか・・・」 ベッドの上に寝転がりながら、マニアはつい、言ってしまった。 この宿は、外見にもおとらず、中身もともなっていた。 部屋はカントリー調の家具で統一され、なおかつ清潔感がある。 部屋の備品も新品そのもので、使うのがもったいないくらいだった。 「あのメイド部屋なんかと、比べるまでもないわ」 どうやらそれは、同室のグレイシアも、同じ考えのようだ。 彼女は、これまでにないくらい、目を輝かせていた。 「あ、そういえばアイツ・・・、ティオは?」 「王子様は、別室です。向かいの部屋ですよ」 「そっか」 マニアは、体を仰向けにした。 ―これで図書館でのことがなければ、もっと楽しかったのに・・・― 「ねえ、アイツはさ、もとからああいう感じなの?」 実はすこし気になっていた。一国の王子にしたら型破りすぎではないかと。 「王子さまのことですよね」 「ええ」 グレイシアは言葉を選ぶようにたっぷりと間をおいていった。 「たぶん、マニアさんのいう”ああいう感じ”だと思います。ティオール王子は少し王族から浮いていますので…」 「ねえ、それは何故?」 グレイシアはマニアの質問に答えにくそうだったが、やがて重たい口を開いた。 「あの…これはあくまでメイドの噂ですから、本気にうけとらないでくださいね」 そう何度も念を押す。 「わかった。おねがい、教えて」 「――普通王族と言うのは複数の女性と結婚し、子供をもうけます。ティオール王子の実母は第5王妃のリリカ様というお方で―もう亡くなってはいるのですが、その…異世界からきたかたであったらしいのです」 ―この世界も、そして王族も複雑だな。 マニアはそう思った。 「リリカ様、そしてアマリア様―と、ティオール王子は”異世界人”との繋がりが深いともいえます。しかしこの世界にとって異世界人とは異物と同じ、また何が起こるかも予測不可能なため、あまり快くは受け入れられない、というのが大体です。ましてや、王族ともなれば―血統が重んじられるため、結果ティオール王子はすこし浮いているんです」 「・・・、随分と王族は、自分達の血にこだわるのね」 マニアはつぶやいた。現世では、家柄や確執などに、あまり実感は沸かなかった。 「えらくなった人は、皆そうです。自分の作ったものが壊されないようにと、必死なんですよ」 ・・・、だからって。 「ひどいわ」 少なくとも、グラドとの対話を思い出すと、マニアはそう思わずにいられなかった。 「私も、同感です」グレイシアもつぶやいた。 その時、ドアがノックされ、扉が開いた。 「おい、飯だぞー・・・何だ、二人そろって、何辛気くせえ顔してんだよ」 ティオは二人を見て、ニヤリと笑った。 「俺が選んだ宿なんだからな、楽しまねえと、承知しねえぞ」 ―うっひょー。人格までかわりそうなほどマニアは感激した。 「やるわね王子…すごく美味しそう!」 目の前には、香ばしい匂いがたちこめたこの宿の主人特製の豪勢な料理がずらりと並んでいた。 グレイシアもこれには感激で、パァッと花咲くように笑顔を綻ばせた。 「さ、食おうとしよう!」 ティオが食事の音頭をとる。四人がけのテーブルに女二人と、男一人という風に座っていた。宿は繁盛しているようで、和気藹々とした賑やかなムードにつつまれている。 「いただきます!」辛気臭さを一気に吹き飛ばして元気よくマニアは言い放った。 「お前…よく食うな…」やや感心したような、しかしあきれた様子が顔一杯に書かれている。ティオはマニアに向かってそういった。 グレイシアというと、お上品に少しずつ食べている。レディの見本のような仕草だった。 なのに、 「それに比べてマニア…お前は…」はぁ、とため息をつくティオをにらみ付けて、マニアはチキンを頬張った。 「にゃにかはぅい?(何か悪い?)」 ←back/next→(novel top) (c)amazu&mizuki 2007 |