L.O.S
 [9]






「作者はケイージャ・スラトル。発行日不明・・、と。表紙の布を調べてみましたが、30年くらい前の物のようです」
4人は公園の噴水に腰掛けていた。モノがメモをすらすらと読み上げる。
「文体からして、性別は多分、男。年は30はいってますね。もし当時30歳ならば、今は60歳でしょう」
「かなり絞り込めたな」
ティオが少し嬉しそうに言った。
「でも、どうやって探すんですか?それだけでも、大変ですよ・・・」グレイシアが呟いた。
「そうだ、お譲ちゃん、いいとこツイてるね」モノがグレイシアの頭を撫でた。
「・・・、だから、知ってそうな人を探すんですよ。こういう希少分野は、知っている人は少ない。けれども、一人見つければ、その知識はとても深いはずですから、この人のことも、知っているはずですしね」
「へええ・・・」
頭いー。失礼だけれども、マニアはつい、そう思った。
「で、どうやって探す?」
ティオが肝心なことを聞いた。
「それはですね・・・」
「それは?」
マニアが待ちきれないというように先を促した。モノはもったいぶった調子で話を続ける。
「それはですね……酒場へ行くのですよ」
「成るほど、その手があるか」
ティオは感心したように言う。モノは得意げに頷いた。
「これが一番能率的でしょう」
―酒場、ね。確かに…能率的だわ。よくRPGとかでも行くものね…。マニアの中でも合点した。
「…となるとグレイシアちゃんは行けないわね」
「そうだな…。そのまえにマニア、お前は酒大丈夫か?―一応、この国では18以上なら飲酒出来る」
マニアはむ、とした。―わたし、何歳に見られてるのかしら…?
「当たり前でしょ、飲めるに決まってるわよ!」マニアはちょっとイラつきながら言った。
「ふむ・・・」
いやに見下したような目で、ティオはマニアのことを見た。
「お前の口ぶりだと、それ以下に見えるからな。確認をとったんだ」
これにはさすがに、頭にきた。
「そうよ、あなたは貴族だから、大人気なく見えるでしょうよ。いいわ、あなたは周りに正体ばれるといけないから、グレイシアちゃんと待っててよ」
マニアはそういうと、モノを引っ張ってずんずん進んでいった。
「お、ちょっ、ちょっと、マニアさ〜ん!?」
マニアはモノの声も聞こえていないようだ。
残された二人は、ぽつんと噴水の前に立っていた。
「たく、そういうところが大人気ないんだ!」
ティオは叫んだ。


「やれやれ…あなたも大概大人気ない」
モノはマニアに引っ張られながら苦笑した。
「…あの馬鹿王子がいけないのよ!まったくレディに対して…」
マニアのぶつぶつと文句を言う声にモノはさらに苦笑を深くする。
「若いって、いいですね」
「……何かズレてますよモノさん」
「…それはそうとマニアさん、あなた酒場の場所をご存知で?」
―へ?
は、としてマニアは手を離した。
「…わたしったら…ごめんなさい、つい」
「いえいえ、大丈夫ですよ。さ、酒場はこちらです」
―大人の男ってこうでなくちゃ!…どこかの馬鹿王子が頭に過ぎりながら、マニアはモノに着いて行った。
「さ、ここです」
ほ〜。こりゃあ久しぶりにコスプレ祭状態だ。マニアは改めて、ここが異世界であることを実感した。
中は、もちろん、普通の服装の者もいたが、鎧や、ローブを身にまとった集団が、あちこちにいた。
内装は木でできていて、いたって広く、にぎやかな声でひしめいている。
「酒場は初めてですか?マニアさん」モノがいきなり顔をのぞきこんで聞いた。
何を当たり前のことを、来たことないに決まってるじゃない―と、マニアは言いかけそうになったが、
あ、そういえば、モノさんは私が、異世界から来たってこと知らないんだっけ・・・。
思い出して、
「・・は、はい!ちょっとびっくりして・・・」と答えた。
:「そうですよね、こんだけ鎧の男達がいたら、びっくりしますよ」
モノはにっこりと笑う。
うわあ、やさし〜・・・。マニアは不覚にも、ちょっと好感を持ってしまった。
―アイツだったら、またああいう馬鹿にした目でみるんだわ!!―ついつい、ティオと比較してしまう。
「マニアさーん、こっちですよ」そうしているうちに、モノは奥の方へと行ってしまった。
「あ、はーい!!」
走っていくとその先には、紙がところせましと張られている巨大なコルクボードがあった。
「これが、掲示板です。いろんな人が来るから、ここに用件や、協力してくれる人なんかを探すんですよ」
モノがどこからともなく紙とペンを取り出した。
「これで、この本について知っている人を、探しましょう」
うわぁ…綺麗な字。日本語で綴られる字をみてマニアは思った。そして、この世界の言葉が自分にも分かるということに安心した。
「これで、すぐに見つかりますよ。あとは連絡を待つだけです」
モノが笑顔で言う。どこをどうみて紳士な男だ。―どこぞの馬鹿にも、そして日本人にも見習ってほしい物だ。
「じゃあそれまでここで待つ、ってことですか?」
「そうなりますね」
馬鹿は別にして…グレイシアちゃんをあそこに置いてきたのは少々不安だ。
「ああ、あの二人のことなら大丈夫ですよ。安心して泊まれる宿を知らせてからここに来ましたから」
マニアの心配を読み取ったようにモノはそうつげた。ここまでくると惚れそうだ。―まずないが。
「―さ、あちらでなにか飲みましょう」
「そうしましょう…あ、お金が…」
「大丈夫です。女性にお金を出させるような無粋はしませんよ」
「うわぁ…ありがとうモノさん!」
「この時期は東北地方のレモンビールが美味しいんですよ。アルコール度も少ないですし、それにいたしましょう」
  席をきめたあと、モノは鮮やかな小麦色をしたビールを持ってきた。
「おいしそう!」
見た目を裏切らず、とても美味しいビールだった。
―これは家にも持って帰りたい…。
「―モノとマニアだね」


ふり返ると、それは、黒いローブをすっぽり被った、少し背の低めの人物だった。
顔はフードでよく見えない。性別は声からして女のようだ。
「掲示板、見たよ。怪事件についての情報が知りたいんだってね」
掲示板の、先ほどモノが書いたメモが、ローブの人物の手にあった。
「まさか、これほど早くに見つかるとは・・・」モノはつぶやいた。
「それでなければ、毎日ここへ来るつもエだったんだけですけどね」
「それはよかった。私の名前は、エマニエル・シャイド。よろしく」
エマニアルは二人と握手を交わすと、すぐに入り口に向かった。
:「悪いが、外で話したい。他に聞かれたくないからね」
「さて、と―――お前たちケイージャ・スラトルを探しているんだね?」
エマニエルは確かめるようにそう言った。「はい」とモノが頷く。それを見てエマニエルが頷いた。
「エマニエルさんは「エマでいいよ」―エマは彼をしってるの?」
マニアが聞く。ああ、とエマは頷いた。
「さ、ここまで来たのですから教えてくださいますよね?」
「もちろん、そのつもりさ。―ま、ただとは言わないがね」
心得てますとばかりにモノは先を促した。
「もちろん、報酬は弾みますよで、情報を」
「ケイージャ・スラトラル、現在72歳。王都の隣、イーストシティに妻と共に住んでいる。イーストシティは緑豊かな街さ。その外れのエネスト・ヴィレッジに住んでいる。白ひげの賢人と言えば分かるよ―他に知りたいことは?」
「いえ、十分です。報酬はこれです」
モノが何か金貨だろうか、の入った袋を、エマに渡した。
エマは中を確認すると、「確かに」と言って、さっさとその場を去っていった。
・・・意外とあっさりね・・・。こんなにも早く情報が手に入るなんて。正直言ってマニアは拍子抜けした。
「さ、二人のところに戻りますか」
モノがマニアに言う。
「・・・あ、はい」
マニアはぽかんとした顔で、モノについていった。
 


「マニア・・・、モノ・・・、仲間は二人か」エマは、ひっそりと呟いていた。











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