L.O.S [10]「あ、マニアさん!」 帰ってきた二人をみつけ、花が綻ぶような笑顔を見せたグレイシアに思わずマニアも笑みが漏れた。 「ただいま、グレイシアちゃん!・・・・と、馬鹿王子」 「おい、まだ根に持ってるのか?」 ティオが呆れる。 「まさか、そこまでねちっこくないわよ。今のは軽く冗談」 はあ、とため息。 「…おまえ冗談はやめておけ、な?」 失礼な王子は無視してマニアは言う。 「ここが今日の宿ね?」 先日のほど豪華ではないが、それなりに清潔感もあってセンスのいい建物だった。welcomeと書かれた黒板がある。 グレイシアとティオは宿をとったあと、二人を玄関で待っててくれたようだ。 宿に入り、シンプルにテーブルが並べられた小さなホールに入る。そして四人がけの椅子に座った。 「―で、情報は?」 「もちろん、手に入れましたとも」 モノはにやりと笑った。紳士顔とは違って商業用の顔だった。これも一種の職業病か…とマニアは思う。かくゆうマニアも事あるごとにメモはかかしていなかった。 そしてモノは一通り説明をし、ティオとグレイシアは真剣に聞いた。 「・・・本当に、随分あっさりと、情報が手に入ったな」 ティオはまた、“考える男”のようなポーズを上半身でとりながら言った。 「交渉なんて、そんなものですよ。まずイーストシティに向かう、準備をしないといけないですね」 「ん・・・」まだティオは何か引っかかっているようだが、他の三人は、イーストシティのことで頭が一杯だった。 「そうね・・・。やっぱり、服装はこんなんじゃダメかも。何かに襲われたらたまんないし」 「それにしたって、イーストシティって、いわゆる田舎町でしょう?刺激が足りなくていけないですよね〜」 「・・・こんなに外の様子を見られるなんて・・・、怖いけど、ちょっと嬉しいです・・・」 ・・・三人とも、全く話がかみ合っていない。 「そういえば、モノ、あんた報酬にいくら払ったんだ?」 いきなりティオが口を開いた。 「あ、たいしたことないですよ。ざっと、10万リクスです」 ティオとグレイシアの顔色が、真っ青に変わった。 「お、お前・・・」 「すいません、ちょっとネコババしちゃいました」 モノが舌を出して笑う。 「ちょっとじゃねえよ!!ちょっとじゃ!!ふざけんなこの野郎!!」 ティオが顔を真っ赤にして叫んだ。 「ね・・・、何なの?そんなに・・、すごい値段なの?」 マニアがおそるおそる、グレイシアに聞いた。 「はい・・・、10万リクスあれば・・・・、鉄の剣が500本は買えます・・・」 グレイシアはもう、意識が飛びそうだった。 **** 「ま、過ぎたことは忘れましょうよ皆さん」 三人を唖然とさせた張本人がのほほんと笑った。マニアも剣500本を自分の知っているお金にだいたい換算した後に、「なんて額を…」といって意識が飛んだのだ。 「お先真っ暗じゃなーい!」 マニアの悲痛な叫びが宿に木霊した。 「やれやれ、王子残金は?」 「――今夜の宿代で終わりだ」 ―わたしたちも終わりだよ。四人は途方にくれた。 「で、―金は?」 女はニタニタと笑いながら金を請求した。 薄暗い部屋の中で男がトランクを女に差し出す。渡されたトランクの中身をみて女に笑みがなくなった。 「なんだい、これじゃ少ないね」 「何を言う、お前の情報に見合う金だ。」 男は淡々と言う。 「―なんだって?」 「やつらは全員で4人。お前の情報はそれだけだ。10リクスにもならねぇところだ」 「ち、ケチだね。で、次の情報はなんだい?何が望みだ?」 「やつらのもっと詳しい情報だ」 「はいはい、わかったよ」 女は面倒くさそうに言う。 「くれぐれも勘付かれないようにな、エマニエル」 わかってるよ、と言い残して女は部屋を去った。 「・・・さっ、さむ〜・・・」 一行は寒空の下、路地裏で毛布にくるまって縮こまっていた。 「我慢しろ!」 ティオがマニアに喝を入れる。 「あれしか金がないんだ!それなら今夜の宿代を使って、野宿に備えた方が良いだろう!」 「・・・わかってますけど・・・、でもやっぱり・・・」 三人の鋭い視線がモノに向けられた。モノは苦笑する。 「す、すいません・・・」 「まあ、しょうがない。何か野宿に役立つものはないのか・・・?」 とはいえ、マニアとグレイシアは何も持ってこなかったし、他はモノとティオのカバンに、入っているものだけだ。 「ランプは使えるな、マッチも入っているし。・・・?」 ティオがカバンを探っていると、何か見つけたらしい。マニアが思わず近づいてみた。 「何?それ・・・」 「何かありましたか?」と、モノ。マニアの行動に興味が沸いたらしい。 「あー…飴だ。三つある」 「三つ?四つじゃないんですか」 グレイシアがきょとんとしている。 「いや、三つだ。あるだけでもラッキーだな」 「どうする?」マニアはにやりと笑いながら言った。もちろん答えなんて決まってる。モノは苦笑しながら先回りして言った。 「わたしはいりませんよ」 「どっちにしても・・・飴だけか」 ティオがしょんぼりといった様子で言った。―王子はきっとひもじいなんてこと無いんだろうな、とマニアは思った。しかしこれが現実。しょうがない。 「……わたしたち、どうなるんでしょうね」 グレイシアの虫の鳴くようなか細い声に、また四人は途方にくれた。―ああ、毛布にくるまりながら、自分たちはなぜここに居るんだろう? 「ま、明日からは仕事を探しましょう、それからイーストシティに向かえばいいのです」 「で、仕事の目星はあるのか?」 「四人一緒じゃなくても大丈夫でしょう、ということで――」 翌朝、一行が向かったのは、酒場だった。 「殺人バチの針50本、報酬2000リクス・・・、これで決まりですね」 モノが酒場の掲示板の、メモを引き剥がした。 「2000リクス・・・、少なくないか?」 ティオが不満げに言う。 「何言ってるんですか。買取値の5倍はありますよ。もっと報酬の多い依頼にしてもいいですけど…」 「 ティオさんは、戦闘は初心者ですからね、これ以上多くすると、死ぬかもしれませんよ」 モノはわざと最後の方をドスを聞かせていった。ティオの反応は…、言いたかないが、ちょっとびびっている。 「あの、私達は・・・」マニアはちょっと小さめの声で言った。 「大丈夫ですよ。女性をこんな危険な依頼に、向かわせるわけありません」 モノは得意の営業スマイルで笑った。これで、無茶をしなかったら…。 「お二人には、また違う仕事を用意してありますよ、マニアさんはここ、グレイシアさんはここに行ってください」 モノは紙切れを、それぞれ二人に渡した。 そっか、一緒じゃないんだ・・・。マニアはグレイシアがいないとなると、ちょっと寂しくなった。 二人はメモに指定された所に行った。そこは―、 「…うそでしょう…」マニアは立ち尽くしていた。 ←back/next→(novel top) (c)amazu&mizuki 2007 |