L.O.S
 [11]






―なんなの!なんで、なんで…。
「なんで私が畑仕事で、グレイシアちゃんが喫茶店なの?いじめ?ねえ、いじめ?…私何かしましたかモノさん!!」
片手にスコップ、もう片方に種で泣く泣くマニアは畑仕事に従事した。残り1ヘクタールと1メートル。
―ああ、こんなのひどすぎる!


「いらっしゃいませ」
打ちひしがれるマニアの一方でグレイシアは例の喫茶店にいた。いたって普通の店で、客も多くはないがそれなりには入っている。
「ご注文はなんでしょうか?」にこりと笑うグレイシアは好評だった。
―いいな、こういう仕事も。グレイシアは仕事に満足していた。時給400リクス。5時に集合となっているので、それまでに結構稼げる。
「はい、コーヒーですね?」グレイシアは微笑んでいた。―この仕事、楽しいな―
 

 

一方、モノ。モノは一度にたくさん稼げて、尚且つ情報も手に入る仕事をしていた。
その仕事は―
「・・・テメエ、俺は殺人バチに殺されそうだったのに、それかよ・・・」
「いやあ、結構収入が良かったもんでぇ、それに私、戦闘できないですし」
モノはバーテン姿で、随分慣れた手つきで、グラスに酒を注いでいた。
「たしかに・・・、あちゃあ、痛々しいですね・・・」
ティオの執事の服は、所々さけ、すっかりボロボロになっていた。
「ちゃんと鎧とか装備しなきゃだめで「そんな物買えるかよ」
モノが言い終わる前に、ティオはきりかえした。
「・・・そういえば、マニアさんと、グレイシアちゃんはどうしてるんでしょうね・・・」
「あ、マニアの奴、農作業だろ?」ティオが聞く。
「やっぱり悪かったですかねぇ、収入だけ見て、決めたんですけど」
「それより外、雨降ってるぞ」
二人の脳裏に、マニアの姿が横切った。
「大丈夫・・・、じゃないですよね」
カラン、
鐘の音が店内に響いた。客の来た合図だ。
男二人が扉に目を向けると、どこか楽しそうな表情で自分達の方へ向かって来るグレイシアがいた。
「こんばんは、ただいま仕事終わりました」
「おう、お疲れ」
「お疲れ様です、グレイシアさん」
二人は暖かく迎えた。
「では、ここへどうぞ」
モノがティオの隣の席を促す。グレイシアは「失礼します」と断ってティオの隣に座った。ティオのボロボロの執事服を見て、すこし驚いていたが、何も聞かなかった。
「はい、ホットココアです」
さすがに未成年にカクテルなどは出せないので、どこから出したのかモノはココアを差し出した。嬉しそうに受け取る。
「あ、あの…マニアさんは?」グレイシアがおずおずといった様子で尋ねた。
「あー…まだ終わってないようだな」
「…まあ、仕事が仕事ですし…」
二人はマニアの怒りくるう様子を考えながら、そう言った。グレイシアもその様子にはっとした。
カラン、
しばらくして再び鐘の音が響く。直後、地響きのような足音が彼らの元に近づいてきた。
―マニアだ!
・・・やばいぞ・・・
・・・危ないですね・・・
・・・マニアさん・・・!!!
マニアはうなだれていた。その顔は、雨でぬれた黒髪によって見えない。
もちろん服や靴は泥だらけで、右手にただ、くわがきつく握られている。
(本当危険ですよこれは・・・)
(あのまま怪物と化しそうだぞ・・・)
だれもマニアに話しかけなかった。すると、マニアがクスクスと笑い始めた。
「ハハハ・・、1ヘクタールと1メートルよ?明日もだってさ、明日も!」
マニアは大きく笑い声を上げた。その声に、思わず店の客達が、マニアの方を見たほどだった。
「明日もだって!!1ヘクタールと1メートルの続きを!!明日も!!」
ティオはマニアに駆け寄った。
「わかった!!もういい!!もういいからやめろ!!」
ティオは真面目に言った。
「私が悪かったんですマニアさん!!大丈夫ですか!?マニアさん!?」
モノも思わずマニアに駆け寄る。
「マニアさん・・、お願いだから・・・、正気に戻ってぇ!!」
その後、マニアはくずれるように倒れ、朝まで眠ったそうな。


「ん……朝?」マニアは窓の光に目を覚ました。
だるい体を無理やり起こすと、そこは古ぼけてはいるが、宿の様だ。ベットがふたつあり、片方は自分が占領しているが、もう片方は蛻の殻だった。
「あれ…わたし…記憶が―」記憶が、モノの働いていたバーに入ったところで終わっている。その後、どうしたんだっけ?
マニアがプチ記憶喪失パニックに陥りそうになっていたとき、ギイイと年季の入った音をたてて扉が開いた。グレイシアだ。
「あ、マニアさん、目を覚まされたんですね」
彼女はほっとしたように笑いかけた。
「あの、いま何時?わたし実は仕事が終わってなくって」
やや仕事を考えて鬱っぽくなりながら、マニアは言った。そうしながらも、ベットからおき様とする。みしみしと音をたてるように、体が固まっていた。恐ろしいほどの筋肉痛である。
「あ、わたしたち三人でやったんですよ。あのごめんなさい…マニアさんばかり大変な仕事を」
「いや、いいのよ…!!ほんとに。だから泣かないで!!ああ、なかないで」
グレイシアの涙ぐみはじめた様子にマニアはあわてた。そして、ふと疑問がよぎる。とてもあれは朝のうちにできる仕事ではない。
「もしかして、結構日にちたってる?」
「あの、マニアさんは丸一日眠っていたので…。アルバイト初日から、二日目ということになりますね」
「うわあ・・・、そんなに眠ってたのね、私」
マニアは頭をかきながら言った。
「本当に、あれだけの仕事をやったら、そうなりますよ」
グレイシアは優しく笑った。
「あ・・・、他の二人は?ご飯?」
「いえ、野宿用品を買いに行ってます。ここも、今日には出なければいけないですからね」
「ふうん・・・」
それなら、もうちょっとここで寝ちゃおうかな。マニアの頭に、そんなずる賢いことがよぎったが、何とか振り払った。
「そっか。じゃあここを出る準備をしないとね」
「えっ・・・、もういいんですか?」グレイシアがマニアを心配そうな目で見る。
「うん、大丈夫よ!筋肉痛だって、動かないと直らないし・・・」
・・・とはいえやっぱり痛いが。
「・・・そうですか。マニアさんがそういうなら・・・」
その時、グレイシアは突然、ハッと気づいた顔をした。
「そうだ、前の服はボロボロになっちゃいましたから、新しいのを買ってきたんです」
グレイシアは楽しそうに、ベッドの下から、服の入った袋を取り出した。
「どうですか?マニアさん」
―これはもう…なにかのイジメかしら。ひょっとして、呪われてる?
「あ、あの…気に入らなかったですか?」グレイシアがわなわなと泣き出しそうになりながら言った。マニアは彼女のコレに弱い。
「い、いやあ。そんなことないわよ?!とっても…うん、とってもっす、素敵…っ」―な、巨 大 イ チ ゴ……。
表面は普通のこげ茶のワンピース―下級メイド服から、エプロンを除いてたけが膝より上―で、その下に動きやすいパンツを履くようになっている。
問題は裏だった。何故か巨大イチゴが背中に張り付いているのである。しかも文字まで入っていた―
"I love strawberry very much!”
berryとveryをかけたシャレのつもりだろうか・・・。
とにかく、(グレイシアちゃんにはとても言えないが・・・)酷くダサい。
「ごめんなさい・・・、女の子らしい服がいいかなと思って・・・、マニアさんイチゴ好きだし・・・」
「そんなっ、何であやまるの!?グレイシアちゃんが選んでくれた服じゃない!ありがとう〜!」
いつ・・・、私がイチゴ好きに!?マニアは内心そう思った。
その時、マニアはふと、思い出した。初めてグレイシアちゃんに会った時、
私は、イチゴパジャマだった。
イチゴの悪夢再び!?マニアは心の中でぐるぐる回っていた。
そんな時、部屋のドアからノックが聞こえた。
「おい、買い出し終わったぞー」ティオの声だ。
「はい、入ってください」グレイシアがティオに返事をした。
「ん、マニアは起きたのか」ティオは大きな袋をぶら下げながら、部屋に入ってきた。
「ああ・・・、うん。この通りよ」先ほどの服のショックが抜けないマニアは、うかない顔で言った。
「まだ調子が悪そうだな・・・、あ、そうだ」ティオは袋を下ろして、中身を探った。
・・・まさか・・・
またイチゴの悪夢が!?












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