L.O.S
 [12]






「全員にマントと防具を買ってきたんだ。夜は冷えるし、獣に襲われるかもわからないからな」
・・・マント・・・防具・・・!
―ティオ、アンタたまには、いいことするじゃない!!―無地のマントを広げて言うティオを見て、マニアは感激した。
「お、王子……!!」
あまりに感激して、思わずそういって目を潤ませるとティオは「うわ」といって後ずさった。
「ど…どうした?マニア」
「まったくもう…失礼ね。ちょっと嬉しくて感激しただけよ」
そういうとティオはあからさまにため息をついた。
「一瞬鳥肌が立ったぞ…お前に涙は似合わない」
っこんの馬鹿王子…っ!感激も吹き飛んでいった。
「もういいっ。このノーデリカシー男!はやくそれ頂戴」
そういってティオの手に握られていたマントを奪い取る。
「ほら、なに突っ立ってるの!着替えるから出て行って。まさか見る気?−王子だからって、許されないわよ」
―まずお前のは見ないって。ティオはどうにか口に出さずにすんだ。危ない危ない。
「ほら、出て行け!馬鹿王子!!!」
そして追い立てられるようにティオは扉の外へほうり出された。モノが同情の目つきでティオ見る。
「女性とは、難しいものです」
モノが神妙な顔でいった。
神妙な顔でティオは頷いた。
「まったくだ」



「ホントッ、うれしい!こんなに色んなもの貰えるなんて、誕生日みたいね」
いちご服とマントを抱きながら、マニアは言った。いちご服とティオの言葉にはダメージを受けたが、きれいな服を着られるのは、やはり嬉しい。
「よかったですね、マニアさん」グレイシアは微笑んだ。この子の表情には、ほとほと参る。こっちまでなごんでくる。
「で、どんな感じなのかなー」マニアは着替えた服を見に、壁にかかる細長い鏡に、身を映した。
いちご服とマントを抱きながら、マニアは言った。を、ベッドに腰掛けてマニアは言った。にしてください。これじゃ早着替えだ・・・。
「・・・」
なんか、ちょっと某美少女戦士っぽい・・・。
いちごがマントで隠れるのがいいが、マントが戦士モノのそれっぽくさせている。
「うわあ、お似合いですよ!マニアさん!」グレイシアが屈託のない笑顔で言う。
「あ、ありがと・・」
−ま、いっか。こっちでは変じゃないんだし−
  「よし、行くぞー」
荷物などを確認し、ティオが号令をかけた。
さすが、本場の人というべきか、ティオは防具やマントが板についている。
モノは細長いせいか、ちょっと防具が大きすぎて、余計細く見える。
グレイシアは背が小さいので、みんなより軽装だが、やはり動きにくそうだ。
そして、マニアはー、
「・・・これじゃほんとに、ゲームに出てくる女戦士じゃないの・・・」
だが、だれも突っ込む人はいない。
「・・・はあ、ティオ、イーストシティまで、どうやって行くの?」
「ああ、俺達は今金がないから、ほとんど徒歩だな。ひとつ山を越えることになる」
「今地図を出しますよ」モノがカバンから地図を取り出した。
「ここから東に歩いて、ウィスク山を越えるとあるんです。・・・少なくとも、五日はかかりますね」
「はああ…」
目の前にある巨大な山を見て、ため息しか出なかった。王都と近いといっていたのを覚えている。−この国の”近い”はもう信用できない!マニアは叫びたくなった。
「さて、とりあえず山の裾まで、あの馬車に乗りましょうか」モノが道路を闊歩する馬車を指差した。
「そうするか。値段は?」ティオはたずねる。
「四人で10リクスですね。十分間に合うでしょう」
そして四人は馬車をとめて、値段を払い乗り込んだ。大人数用の馬車で、10人は乗せられるほどのスペースはあった。問題はボロいところだったが、ここは目を瞑る。
「おや、お前達もウィスク山へ向かうのかい?」
一人の老婆が言った。現在中にいるのは彼女だけで、モノは丁寧に「そうです、レディ」と返事をしていた。
マニアは案外心地よい馬車の乗り心地に安心していた。目的地までは、少なくとも2時間はかかるであろう。
「ここであったのも何かのよしみってことでサァ、わしも一緒に連れて行ってくれないかい?その様子だと山を越えるんだろう?」
老婆が懇願する。彼女の皮膚の下で、もうひとりの女―エマニエルは内心ニタニタと笑っていた。これで金はがっぽり稼げるだろう。そう思うと笑いが止まらない。


「・・・ティオさん。いいですよね」グレイシアがティオに問いかけた。
「・・・」ティオは何も言わない。ただちらっと、老婆のことを、見ただけだった。
「いいって。お婆さん、一緒に行きましょう」マニアはきっと、ティオの事を睨みつけて、老婆の手をとった。
「悪いねえ、それじゃあ、一緒に行かせてもらうよ」
――馬鹿め。エマニエルはどす黒い幸福でいっぱいになった。やはりこの女、能無しのようだ。
他は、小さくて気の弱そうな子供と、細長くて、いかにも力のなさそうな優男だ。
―こんなんじゃ盾にもならないね―エマニエルは気持ちが高ぶった。金はもう、貰ったも同然だ。となると、警戒するのは―、
王子だけだ。先ほどから鋭い視線を向けるティオを見て、エマニエルは思った。
馬車が山の麓に近づいてきた。一行は、荷物を下ろして、降りる準備をした。
「ありがとうございます」馬車の運転手は代金を受け取ると、もと来た道を戻っていった。
「わあ・・・」マニアは思わずつぶやく。
目の前に広がるのは、大きな岩々の転がる急斜面から、草や木が生い茂る、薄暗い森だった。
「地図によると、道があるようですね。まずはそこを探しましょう」モノが地図を片手に言った。
「ここからが難所ね・・・」マニアは決意を込めた。










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