L.O.S
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「・・・ああ、少し眠れなくってねえ、それで、アンタを起こそうと・・・」
エマニエルは慌てて答えた。だが、動揺の色が隠しきれない。
「それは、あの薬のせいでしょう?あれはタイドリンと言って、一粒飲めば、疲労も空腹も感じず、眠る必要もない。ですよね?フェルガさん」
「!!!」フェルガは、エマニエルの真の名だ。エマニエルはとっさに逃げようとした。だが、手首を強くつかまれて、動けない。
「だれだっ!貴様はっ!」エマニエルは叫んだ。
「おやおや、昔の同胞さえもわからないなんて、腕が落ちましたね」
「・・・!お前は、スティックか!?」
ふう、と一息ついてからモノは冷静に言った。
「―あなたという人は、昔から金に執着していた。十中八九、わたしたちの情報を売っているのでしょう?―あなたとはいいパートナーだったのに、残念ですよ」
「じゃああんたやっぱり、スティックなんだね」
エマニエルはこの状況に舌打ちしてこの場から去りたい気分だった。モノという名前に違和感は感じてはいたのだ。が、常にスティックと呼んでいたため気づかなかった。
―このクソ野郎!このままだと折角の金がパアだよ!
「相変わらず変装が上手ですね。けれど、あなたは変わりきれていないところがある」
もうすでに二人の間にかつてパートナーを組んで探偵をして情報を集めていたころの空気は消えうせていた。
「―なんだって?」
信じられないという目つきでエマニエルは言った。興奮していたせいで大きくなっていた声は、ティオを、そしてグレイシアまでもを起こしてしまっていた。
マニアは空気が読めていないのか、グースカグースカ時折イビキをかきながら寝ている。
ティオは剣に手をかけ、いつでもエマニエルを斬りつけられる様に準備している。グレイシアはマニアに近寄り精一杯に起こしていた。
「・・・直されると困りますからね。いいませんよ」
「くっ・・・!」
―どこまでも抜け目のないやつめ・・・!―
「む・・・。ふにゃ・・・?」マニアも起き出し、フェルガは4人に囲まれる状態となった。
このままでは、本当に捕らえられてしまう。命がなければ、金があっても仕方がない。
フェルガは舌打ちをすると、そでから、何か赤い弾を取り出した。
「!」モノは、フェルガが何をしようとしているかに気づいた。
―まずい!!―
モノは止めようとしたが、遅かった。次の瞬間には、周りは煙で覆われ、気づいた時には、モノは老婆の 手の皮しか、持っていなかった。


事が収まった後、モノは、三人にフェルガとの関係を話した。
「まさか・・・、あの時のエマニエルさんて人が、ルイーゼさん!?」
マニアもすっかり目が覚め、話にくわわっていた。
「そうです。魔術学校の頃から、変装は上手かったですからね。・・・昔から、お金に執着する所はあったんですけれど・・・」
「お前は好奇心で動き、フェルガは金のため・・・。それで決別したわけだな」ティオが推理した。
「・・・はい」モノは静かに答えた。やはりどことなくさびしそうだ。
「・・・ところで、さっきモノさんが言ってた、フェルガさんの変わりきれてない所って・・・?」
グレイシアがひっそりと聞く。
「それは、魔力にくせがあるんですよ。魔力のある人はたがいにそれを感じ、どことなく特徴があるんです。彼女はそれを、隠しきれていない」
「へええ・・・」マニアは言葉を吐き出すように言った。なんだかこの数分で、これまで寝た分を、全て使ったような気がする。
「…それより、厄介なことになったな。当初より大分やっかいな問題が増えている…」
ティオが重たく溜息をついた。他の3人もそれを考えて鬱な気分になる。
―なんだか、とっても大変な話になってるんじゃないの…。そういえば目的なんだったかしら…。そう、私のこと…だけど、何でここにいるんだっけ?
暫く思考をめぐらせてマニアははっ、とした。どんどん、異世界から来たという記憶が消えてきている。この世界に馴染みすぎてきたのだ。
「―早く、早く情報を…。わたし、この世界にどんどん馴染んできているみたい」
「そうか…やばいな」
グレイシアはどういっていいか分からずに押し黙り、一方モノは確かめるようにマニアに聞いた。
「実はそうかもと思っていたのですが…。もしや、マニアさんは異世界人-一部ではビジターと呼ばれますが-ですか??」
やんわりと、当たり障りなく聞いたが、モノのなかでそれは既に確定事項だった。すこし一緒にすごせば、彼女がこの国のものではないし、ましてやこの世界の者ではないことが分かる。 ―今のところよくわかっていないのが、グレイシアさんですが…。

調べたが、簡単な個人情報-大まかな出身地や、年齢-などしか出てこなかったのが、グレイシアだ。そういった意味で、王子のほうはあまり問題が少ない。
マニアにいたってはビジターということで、認識してもいいだろう。思考がそこまでいったところで、マニアがこくり、と頷いた。 それで十分であった。詮索はやめておこうとおもい、モノは「―やはり、そうでしたか。さて、そろそろ寝ましょう」といって、その夜は全員すぐに眠りに落ちた。


朝になった。昨日の気分を晴らすかのように、天気は晴れだ。
マニアは一番寝たのに、一番最後に起きてきた。
「ん。そういや、モノ、お前魔法使えるって事だよな・・・」ティオはおもむろに聞いた。
「はい、ただの細長いヤサな探偵じゃないんですよ、実は」モノはちょっぴり自慢げに言った。
細長いヤサな探偵・・・。自覚してたのか。マニアは寝ぼけ眼で、ぼんやりと思った。
下りは登りよりも楽・・・、というわけでもなかった。急な坂道が続き、普通に歩けば、転がってしまう。
一行はロープを使い、慎重に進んだ。(マニアは幾たびも落ちそうになった)
夜もとっぷり暮れた頃、一行は丁度いい場所を見つけて、野宿することにした。
「見てください、あれがイーストシティです」
草木の分け目からは、周囲を見下ろす事ができた。暗い山とその下の草原に、黄色に光輝く部分がある。
「いよいよ、近づいてきましたね・・・!」グレイシアは興奮気味に言った。
「ああ、これで、お前のことがわかるぞ」ティオがめずらしく、マニアに笑いかけてきた。
「あ、うっ、うん・・・」マニアはちょっとドキリとして、あわてて眼をそらす。
眼下の光は、4人の心を色めき立たせた。










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