L.O.S
 [15]






「ウェルカムイーストシティ!ほんと、田舎って感じだけど、こういうのもいーわねー」
マニアはご機嫌だった。少々年季がはいっているwelcomeという看板をみて感激した様子。
「そうだな…、悪くない。とりあえず宿探すか」
「疲れましたしね、今夜は野宿はやめておきましょう」
「わあ、素敵ですね―。ちょっと暑いですけど、夏で良かった。あちらに、宿があるみたいですね」
旅の疲れを見え隠れさせながらもそれぞれ嬉しそうな顔をしていた。
やはり農業や酪農が中心らしく、広さに比べるとあまり家屋はない。マニアが聞くとモノは「人口5千人ほどですね」といったが多いのか少ないのかよくわからなかった。
そしてグレイシアが指差したほうに丁度良く宿があった。
「わあ、なんか可愛い。あそこがいいわ!」マニアが嬉々としてその宿に歩き始めた。
可愛いと評したとおり、赤と白を貴重とした、木造の宿だ。
ワン!
四人が近づくと主人に客をしらせるように番犬のヨッシーが吠えた。ラブラドールレトリバーににたヨッシーはその可愛らしい宿にぴったりだった。
「さて、ミスター・スラトルの居場所もついでに聞けたら願ったり叶ったりですね」
「まったくだな」
明日には、帰れるかもしれない。記憶が薄れてもすぐに思い出せるようにマニアは手の甲に”ビジター”と書いておいたのだ。
「とりあえず入りましょう!」
カラカラ、と鐘の音。明るい宿の主人。マニアにはすべてが明るく見えた。
ケイージャ・スラトルまで、あとすこし。
宿にチェックインした後、マニアは主人に、ケイージャ・スラトルについて聞いてみた。
「ご存知ありませんか?」
ご主人は五十くらいか、白髪まじりで、髭をたくわえている、喫茶店のマスターのような人だ。
「ああ、スラトルさんね。ここから東にいって、町外れの、森の近くに住んでるらしいよ」
―よっしゃ!―マニアは歓喜の表情だ。
「もしかして、スラトルさんのところに行くのかい?」ご主人は不思議そうな表情で聞いた。
「―?はい、そうですが」
「・・・あの人は変わった人でね、それでなくとも、人嫌いなんだ。行くなら、気をつけたほうがいいよ」
「・・・はい・・・」
マニアは、先に外に出て聞き込みをしていた三人と合流した。
「全員、一発でわかったようだな」ティオは全員の顔を見て察した。
この様子だと、地元じゃ、かなり有名らしい。
「そうですね。一応皆さん、聞いたことを言いましょうか」
それぞれの話をまとめるとー、
「東の町外れの、森の近くに住んでいて、性格は変わっていて、人嫌い・・・」
「・・・気をつけるようにとも、言われました・・・」グレイシアがつぶやく。
・・・どうやらスラトルは、かなりの偏屈らしい。
「・・・行くしか、ないわよね・・・」


「はー着ちゃったわね…」
もともと人口の少ない町だったが、その外れとなると人のひの字もなかった。
「こんなところに家が…」
グレイシアが目の前の家を見て、そうつぶやく。森に飲み込まれてしまいそうな一軒屋。木造の白でペイントされたその家はツタが生い茂り、周りには羊と鶏が飼われていた。
「さて、行くしかないようですよ」
「まったくだな」
「・・・特に、何も変わったところはないようだけど・・・」
柵の中へはいって見たが、地面も、特に変哲のない草地で、いたって普通である。
一行はしばらく普通に歩いていた。しかし、途中で、マニアは、なにか石のような物を踏んだ。
「?」
そう思ってまもなく、四人めがけて、何かが風を切って、飛んできた。
「危ない!」
ティオはぼぅっとしているマニアを抱いて、それをかわす。
「むぎゃっ」
マニアが、押しつぶされたような声を出す。
「・・・これは・・・」モノが、草地の向こうで、グレイシアを抱きながら、そうつぶやいていた。どうやら、二人も間一髪でさけたらしい。グレイシアがガタガタ振るえている。
見ると、それは、羽の辺りにひものついた、矢だった。
ひもは、家の二階の窓に続いていた。そして、そのひもの先にいたのはー、
「ちっ、はずしたか!」
タコを連想させる、ひげをはやした老人が、悪態をついていた。
「何なの!?何様よあのタコ!」マニアが悪態つく。
「静かに」
状況が掴めないので、相手を挑発させてはいけないとティオが咄嗟にマニアの口を塞いだ。
「っっっ!」
「おい男。そこのノロマをちゃんと黙らせておけ、煩くてしゃあないわ」
老人がティオに向かってそう吐き捨てた。
―このくそ爺…!
ティオは逆上するマニアを必死におさえつける。
「あなたがケイージャ氏ですね」一番冷静だったモノがいった。
「だとしたら何だ?さっさと帰れ」
「それは無理だな」
「…何を若造。何が目的だ?」ティオに対して問いかける。
「―この女はビジターだ。早急に、異世界の情報がほしい」
「・・・ほう?」すると、いきなりケイージャの目が変わった。好奇心できらきらと輝いている。
「・・・お前が、ビジターとな?」
「そうよ!私がビジターよ!」マニアがえっへんと、胸を張って言う。
―そんなえばって言うことか?―ティオはそう思ったが、またガミガミ言われるとたまらないので、心の中にしまっておくことにした。
「・・・」ケイージャは、また先ほどの、訝しげな表情に戻り、不信そうに言った。
「ここまで態度の悪い、ビジターも初めてじゃのう・・・」
「なんですってえ!!」マニアがまたカッカし始めたので、ティオはあわてて抑える。
「だいだい、この女がビジターだという証拠が、どこにあるのかね?え?男1」
「証拠か。…なにかあるか?」
ティオから開放されたマニアは首をかしげた。―証拠?
「特にこれといって立証できるものは」
「じゃろう。ほれ、嘘をつくでない」この言葉は四人を苛立たせた。が、大人気ないマニア以外は旨く隠す。
「―じゃあケイージャ氏、マニアにこっちの人じゃなきゃ分からない質問をしてくれないか?」
―つくづくえらそうだな、この男。マニアはジト目でティオを見上げた。だけど時々この口調が懐かしい。理由は分からない。
「そうじゃのおう…この女ビジターでなくても中身が入ってなさそうだからのう…」
もう、マニアは腸がにえくりかえりそうだった。「馬鹿にするのもいい加減にしてよね!!」
爺は小馬鹿にした目で、うえからマニアを見下ろす。「本当に単細胞じゃな、お前は」











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