L.O.S [17]「痛い…痛い…いたい…」マニアは苦痛で顔を歪めた。 四人とエミルは黒塗りの馬車に乗っていた。 「悪いがイーストシティを抜けるまでは辛抱いただきたい」エミルは人の良さそうなさわやかな笑みをマニアに向ける。 マニアは一瞬こいつ申し訳ないだなんて、全く思っていないんじゃないんだろうか、と殺気が沸いた。殺されたくないので、さすがに何も言わない。 イーストシティは田舎町であるだけあって、砂利などで道がぼこぼことしている。長閑で、時折牛が横切るくらいなのだ。 「命令は、国王が?」ティオが短くそういった。 「ええ。一番王子を探していらしたのは、ルシファル様ですが」 「―――」 「愛されてますね、ティオール王子」モノがからかう様にいった。 「やめてくれ―。」あいつに関しては、冗談に聞こえないんだ。 ティオは思わず頭を抱えた。あいつに会うのは嫌だ。あいつとは、言わずもがなである。 「ねえ、わたし、どうなっちゃうわけ?」―痛みが酷くなる尻に内心泣きながら、マニアは聞く。 「それは私には計りかねますが―、悪いようにはならない筈ですよ」 ―この人いまいち信用できないんだよなー。ティオを見るとまだ頭を抱えている。そんなにそのルシファル王子が嫌いなんだろうか? 「っ!」―痛。フラッシュバックだ。 ―エミル、あなたまで―…。申し訳ない、――あの女、目障りなんだよね― 「どうかしましたか?」 「マニアさん、大丈夫?」 「―…うん、大丈夫……」 一瞬、エミルという男と、金髪の男が見えた。私はいったい何を思い出そうとしているのだろうか――。 マニアは不審そうに自分を見る四人に何でもないのよと、笑顔を作った。 マニアの頭痛がやまないなか、馬車はようやくがたつかなくなり、ようやく城下町の、プレデントに入った。 まだ頭痛は続いている。ここまで長いのは始めてだ。マニアの顔色が悪くなってきた。 三人はそれを心配そうに見ていた。「マニア・・・」 「降りろ」外から兵士の声が聞こえた。一行は言われるがままに、馬車から降りる。 ずっと外が見えなかったので、仮定だが、多分城の裏門なのだろう。城の背後には、暗い針葉樹林が生い茂っている。 マニア達は腕の縄を、兵士につかまれ、裏門へと入っていった。 これまで見てきた、豪勢なカーペットや証明はなく、まるで洞窟のような石造りの通路だ。 明かりは、ところどころに蝋燭があるだけで、薄暗い。 一行はそこを歩いていく。何が待ち構えているのだろう。マニアが不安にかられてきたその時ー、 「ティオ!!」 奥から声がした。すると、いきなりティオの顔色が変わった。そわそわして落ちつかない。そして、奥から蝋燭の光がちかづいてきたー 「・・・ルシファル・・・」 それは、金髪で背の高い、藍色の目をした、30ほどの男だった。マニアは男に見覚えがあった。 ―この人、いつか夢で見た―! ルシファルはティオを確認すると、ずんずんとティオの方に近づいてきた。そして、ティオとあつい、」抱擁を交わした。 「ティおぉ―――!!心配したんだぞ―――!!大丈夫か!?ご飯はちゃんと食べてたか!?」 ティオは、何とか抱擁からのがれようと、必死だった。顔が、真っ赤だ。 「はなせっ!!放せこの馬鹿!!」 …三人は、ただただぼうっとするばかりだった。 「あ、あなた…」 ルシファルは一瞬きい、とマニアを鋭く睨みつけた。ほんとうに一瞬だったので、他の人は気づかない。 マニアは悪寒が走った。――知ってる、わからないけどコイツは”危ない”―。 そんな彼女を尻目にルシファルはにこりと笑って三人に言った。無論、ティオには抱きついたまま。 「やあ、ティオが世話になったね。俺はルシファル。この国の第一王子であり、このティオールの兄貴。――なあティオ、怪我とかはないか?」 三人はルシファルがティオに話しかけるときだけデレレ、とした顔になるのを見て吐き気がした。グレイシアは顔が真っ青だ。 ティオはルシファルを、軽蔑したような目で見て言い放った。 「お前をあの時から兄と思ったことは一度もない、放せ!!」 ティオはルシファルの腕をふりほどくと、後ろに下がった。 「たく、冗談はよせよ、ティオ。俺はお前のためを思っ― 「貴様の話など聞きたくない!!」 ティオはマニア達が、今まで聞いたこともないほど、声を荒げた。こんなアイツ、初めて見た―、マニアは驚いていた。 ルシファルは、やれやれ、困ったなという風に首を振った。 「エミル、俺はティオールと、二人で話がしたいのだが」 「はっ、どうぞ」 兵士がティオの縄をほどいた。ティオは顔色ひとつ変えない。 「・・・いいだろう、貴様の話、聞いてやる」 二人はマニア達を背にし、通路の奥へと進んでいった。 「・・・あの・・・私達は・・・・」マニアがつぶやくと、エミルがふり返って言った。 「確かに、旅の道中では、ティオール王子が世話になった。それは礼を言う。しかし―、」 「やっぱりこうなるんですね・・・」モノがため息をついた。 三人がいるのは、石造りの牢屋の中だった。 「たくっ、何が礼を言うよ、やってることと違うじゃない!」 マニアはつい本音が出た。 「…マニアさん、そういうこと、言わない方が・・・」 「もういいわ、この際もうどうでもいいっ!!」マニアの声が、牢屋にこだました。 しかし困りましたね」モノがふうむ…と思案するように呟く。暗がりで顔はよく見えない。 「このままじゃ…わたしたち、死刑とかですよね…」 「…でしょうね、あいつでも一応は王子なんだもの」ティオに対して何気に酷い言い草である。 三人は暫くぼうっとする。牢屋には静寂が訪れた。 そのときだ。ガサリ、と鎖の動く音がする。正面に目を向けると、そこには女性らしき長い髪の女性が居た。少なくとも三人の目には女性に見えた。 「――新入りね」 声からすると、20〜30代だろうか。それは明らかに女性だった。 「何をしてここに入れられたの?ここは極刑を控えるものの牢屋、しかも王族に関わるね」 ―やっぱり死刑!マニアは真っ青になる。 「わたしたちはまぁ…成り行きですかね。さて、あなたは?」 モノが丁寧な口調でそう聞いた。彼はここにいるのは自分たち4人だけで、警備は扉の前にいることを推測していた。なんせ牢屋までが長い道。何を話しても大丈夫だろう。 「わたしはね…元メイドだったのよ…。そう……ある人を、あっちに送り返すためにある奴に使われて、使い捨てられて、ここにいる」 そこでグレイシアが、はっと息を呑んだ。 ←back/next→(novel top) (c)amazu&mizuki 2007 |