L.O.S
 [18]






「・・・まさか・・・!!」
「その声、グレイシアね。あなたは運がよかった。生き地獄かもしれなかったけど・・・」
マニアはさっぱり話がつかめない。ある人?あっち?何のことを言ってるんだろう?
「・・・セレスさんですね・・・?まだ・・・、生きていたんだ・・・」
グレイシアはつぶやいた。
「いきなり兵士に捕らえられて・・・。何があったんですか・・・?理由も分からないまま・・・」
グレイシアは、切なそうに声を上げた。
「あなたはいつも優しくて、人を疑わないのね…」
「…セレスさん…?」
「彼女は自殺なんかじゃない、”自殺”にさせられたのよ……」
は、とグレイシアが息を呑む。そしてその両目からは涙が溢れてきた。
「そんな・・・」
「わたしが、毒を持ったの。ただの金欲しさに、あの男の口車に乗ってしまって」
「そんな…そんな……」
「あなたたちには敵が多すぎたのね…わたしも、あの男も、メイドたちも…王族中…」
グレイシアのすすり泣く声を聞きながら、マニアは混乱した頭を整理できないでいた。−このもやもやとするのは何…
「ちょっと待って……ねえ、ちょっと待って…」
マニアが耐え切れないというように声を出した。その声を聞いてセレスの様子が変わる。
「あ…あなた……!!!やっぱり、その声…っ」
「アマリア様と、言いたいんですよね」―モノが口を開いた。
「・・・!?モノさん、何でそれを・・・」グレイシアがふり返る。
「第三王子の正妻ですよ?ヴェザールの国で知らない人の方が、めずらしいですよ」
モノはさらりと言った。
「それに、知り合ったばかりのメイドを、一緒に外に連れて逃げるっていうのも、おかしい話ですし。アマリアさんもビジター、って噂ですしね」
モノはにやりと笑った。暗くてもそれとわかる。モノが好奇心を掻きたてられている時は、いつもこうなる。
「マニアさんは何か、アマリアさんと深い関わりがあるんでしょう。前に入手した、アマリアさんの写真。マニアさんはそれと全く、生き写しですしね」
アマリア・・・。確かに、自分とアマリアの間には、なにかある。――わかってはいるのだが――、あつい霧がかかったように、何も思い出せない。
モノが話している間、鉄格子の向こうで、セレスが怯えているのがわかった。息が微かに震える音がする。
「・・・暗くてよかったわ・・・。私、貴方の顔を見たら・・・、倒れるかもしれなかった・・・」
「・・・、もう、しようのないことです・・・。セレアさん」
グレイシアが、くぐもった声で言った。
セレスの泣き声が牢屋中に響き渡る。その声があまりに悲痛で、マニアは耳を塞いでしまいたいくらいだった。
―「最近お疲れのようですね…どうぞこれをお飲みになってください」―そういうセレスの顔が浮かんで、消える。
「…ねえ…グレイシアちゃん、あなたはそのアマリア様のなんだったの」
マニアが力のない声でいう。薄暗いこの場所はまるで生気まで吸い取るようだ。
「・・・・ずっと、言っていませんでしたね。わたしはアマリア様御月のメイド―一お付となると侍女といいますが―でした」
「それでわたしにあんなことを」
「ええ、そうです・・とても、そっくりなんです。マニアさん…。アマリア様は優しくて、ほんとうに優しくて…。清楚でお淑やかなひとでした」
―最後のお淑やかさと清楚さは、マニアさんとは大きく違うようですね…。モノが心の中でぼそりと呟いた。空気を読み、口を噤む。
「わたしは…だからティオに話しかけられたし、グレイシアちゃんも脱走に付き合ってくれたのね…」
―そういう、ことだったのか…。
マニアは少しさびしさを感じた。
「…そのアマリア様っていう人は、いったい誰に殺されたの?あの男って―」
セレアが、断罪するように重たい口を開いた―  


「で、俺に話しとは」
城内の奥の薄暗いルシファルの部屋―そこで一人は睨み、もうひとりは笑っていた。
「あの女、相当しぶといねぇ。――またこの世界に来るなんて」
「やはり貴様か」
「嫌だなぁ。そんなに睨まないでくれよ。これがティオ、お前のためなんだよ全て―あの女は、この世界に入るべきではない」










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