L.O.S [21]「あーあ。モノにフラれちゃった」 近づいてきた女二人は、モノとのやりとりを聞いていたらしい。 マニアがにやにやと怪しい笑みを浮かべながらティオにいった。 「ったく。お前は…」 「なによ。ため息つくことないじゃない」 「能天気だよな。どうしたらそうなっちまうんだ?」 あきれ返った表情を向けるティオにマニアは文句を言う。そんな言い合いを横目でみながらグレイシアはため息をついた。 近くにいるグラドが気づかないはずが無い。 「どうしたのか」 「いいえ、王子。…ティオさんはマニアさんが好きなんでしょうか」凄い勢いでどこかへ言い合いを続けながら遠ざかっていく二人。それをみながらグレイシアが寂しげにいった。 ―そうか、まだアマリアだと気づいてないんだな…。天然か…。 「グレイシア、お前はアマリアを好きだった筈のティオの気持ちがマニアに向いているのが不安なんだな?」 「いや・・・・あの・・・」マニアを否定しているようでグレイシアは顔を真っ赤にして首をふった。 「…悪かった…。つまりわたしがいいたかったのは、――マニアはアマリアと同一人物だ」 え、ときょとんとしたあとに花がほころぶ様なほっとした表情をみせた。 「やっぱりアマリアさまだったんだ…よかった…。二人がまた出逢えて」 グラドはその表情に、こちらまでホッとするような気持ちになった。 「よかったな」 「・・・はい・・・。それに・・・、あの人だって・・・」 「・・・?」 ティオとマニアはまだ口喧嘩でじゃれあっていた。そこにフッと、誰かが現れた。 「・・・セレスさん?」 マニアがそうつぶやくと、ティオとグラドは、ハッとした顔になった。 「・・・脱走する時に、看守さんの鍵を取って、一緒に逃げたんです・・・」グレイシアが、ティオとグラドに説明した。 彼女はボロボロの白い服に、細身の体で、ぼさぼさの、長い黒髪といった容姿だった。まだ、目が泣きはらして、赤くなっている。 「体はもういいの?セレスさん・・・」マニアは優しく言った。 「・・・話は、全部聞いてました・・・。あなたがアマリア様とはいえ・・・、あなたの記憶をうばって、あなたをあなたじゃなくしたのは・・・、私に変わりありません・・・」 セレスはその場に土下座をした。 「ティオール王子、アマリア様、申し訳ありません!!私は本来、ここにいてはいけない存在です!!」 その場が静まり返った。セレスがしゃくりあげる声だけが、その場に響き渡る。 「もういい」ティオが一番最初に、その静寂を切った。 「しかし、」 「もういいと言っているだろう!!」 ティオは叫んだ。グラドが察し、ティオの代わりに、セレスに話しかけた。 「確かに、そなたは取り返しのつかないことをした。しかし、そなたが今命を絶ったとしても、悲しみが増すだけだ。 貧しいことにつけこんで、そなたをたぶらかした―。あの男に、一番の責任があると思うと、私は思うがな」 セレスが顔を上げた。グラドは、微かに笑って、すぐに顔を真顔に戻し、問いかけた。 「・・・そなたに命令をしたのは、私はそう察しているが・・・、ルシファルか?」 「あの……ルシファル様、といったらルシファル様です…」 しどろもどろに答えるセレス。その曖昧な口調に二人は首を傾げた。―あいつじゃ、ないのか? 「お前はもう自由だ。近く王族も地位を追われるだろう。―言ったからと言って、もうお前を捕まえるやつはいない。正直にいえ、ルシファルじゃないのか?」 セレスはしばらく何も答えなかった。二人は表面上せかさずに、じっと待つ。 「言っても…よろしいのでしょうか…」 「大丈夫よ、セレスさん。」 「あの、わたしは偶然しっていまっただけなんです・・・ルシファル様に呼ばれて、部屋にいったのですが…先客がいて…それで、聞こえてしまったんです」 ―ああ、まどろっこしい。暢気なのに短気なマニアはちょっと耐えられなくなってきた。 「それで?誰?ルシファル以外にだれがいるの?」 「――”お前まだ実行せずにいるのか…、まったく弱い男だ。こうされるのが分かっておろうに”…そういって、白い服を着た人がルシファル様に魔法を…」 「え・・・」ティオは驚いた。ルシファルは魔力の強い男だ。その男を操れるほどのやつとは一体…。 「―で、誰なの」せかすマニア。 「――――王様で、ございます」 「・・・嘘だろう・・・?」ティオはこらえ切れずに言った。 「いえ、嘘ではありません・・・!あれは、確かに・・・、王様の声でした!!」 ティオはもう、何がなんだか分からなくなってきた。何だってんだ。今日は。訳の分からないことばかり起きる。 ティオは八つ当たりに、そこらの椅子を蹴り飛ばし、階段を上がっていった。 「ティオ!!」グラドが叫んだが、ティオが戻ってくる様子はない。 「・・・気を悪くしないでくれ・・・。アイツにとっては、荷が重過ぎることばかりだったからな・・・」 三人はうなずいた。「・・・話を、続けてくれないか・・・」 「いえ、私が知っているのは・・・ここまでです」セレスは静かに言った。 「・・・そうか。もし事実なら・・・、私は、父上と戦う事になるのか・・・」 グラドは皮肉めいた微笑を浮かべ、それから、三人に言った。 「さあ、今日はもう、休んだ方がいい。私も、部屋に戻る」 部屋に戻る時、グラドはひっそりとつぶやいた。「兄と次に会うのも・・・戦場か」 夜が来た。ふくろうがどこからか鳴いている。市民ではランプが主流なこの国は、夜は驚くほど静かで、闇が深い。 「さてと…これからどうしましょうかね」 男は本来の居るべき場所、事務所に来ていた。 来ていた→戻っていた 「あ、社長。久しぶりっすね」部下の一人が気安く話しかける。 「ああ、ロン。何か変わったことはありましたか?」 奥の社長用の椅子にかけながらロンに尋ねた。事務所にはロンと、見習いのシアという少女しかいないようだ。 男はシアのいれたコーヒーを貰って、軽く礼をいった。 「社長の好きそうなのが情報が入りましたよ」 ロンが面白そうにいった。 「ロンがいうならそうなんでしょう――それは?」 そして男―モノも国王が裏でルシファルを操っていたことを知った。そしてもうひとつ、重要な情報を。 「それはそれは…面白くなってきましたね―まさか二人だったとは」 ←back/next→(novel top) (c)amazu&mizuki 2007 |