L.O.S [24]「―一体、何だって言うんだ!」 グラドとティオは困惑していた。 「ルシファル―――何故」 彼らの目の前に先ほど倒した筈の彼が居た。 彼はまた二人に襲い掛かり、また殺される。 そして二人が進むとまたルシファルが現れる。 どうにか10人目のルシファルを倒して、王の間に入り込む。 く、はっはっはっは という笑い声がその広い部屋に響いた。 その声の主は、 「エミル!」 「どうですか?実の兄を何度も殺すというのは。さぞや快感でしょう?―なに、そんなに睨まないで下さいよ。”まだ”生きていますよ、あなたがたのお兄さんは」 「くっ!!貴様―」 グラドは切りかかろうとした。だが、その目の前に、再びルシファルが現れた。 「まやかしか!?」 ティオは叫んだ。エミルは、不気味ににやりと笑うまでだった。 「半分正解だ。ティオくん。でもあれは本当の人間、兵士を使ったものだよ。グラドさん、あなたの元部下をね」 「!!!」 グラドとティオは驚きを隠せなかった。 「・・・でもね。これは違うんだ。」 エミルは一層微笑んだ。 「“本物”だよ、心身証明、あなたがたの兄。そんなに弱いと思いましたか?実の兄が」 人が改めてルシファルを見ると、すでに何者かに切りつけられ、殴られた後が、幾重にもあった。 「・・・ごめんな・・・、兄ちゃん・・・勝てなかった・・・」 兄が肩をふるわせ、こちらに向かってきた。動揺から立ち直れなかったティオは、避け切れなかった。 ティオの背中から、血しぶきが飛び散る。 「さあ、メインディッシュの始まりですよ。血の通った兄弟同士の―、殺し合いが」 ルシファルが剣をひくと、ティオは後ろにゆっくりと倒れた。 「ティオ!!」 グラドが駆け寄ろうとすると、ルシファルはすかさずグラドをも斬りつけようとした。 真っ赤に腫れた、赤い目。苦痛の色、悲しみ。グラドでさえもそれは―、耐え切れるものではなかった。 グラドは剣でルシファルの斬撃を受けー、必死にルシファルに問いかけた。 「ルシファル―!お前のその状態を―、どうにかする術はないのか!?」 ルシファルは首を横に振った。エミルは肩眉を吊り上げた。 「ほうー、まだ抵抗する精神力があるのか―、ルシファル」 「・・・・・・・、俺は・・・、勝てなかった・・・エミルと・・・父上と・・・記憶に」 グラドははっとした。 「―記憶?どういうことだ!エミル!!」 エミルは鼻で笑った。 「種明かししてやるよ。俺はコイツを屈服させ、徐々に記憶を置き換えたのさ。ティオールがアマリアと婚約してからー、ずっとな」 「!それじゃ、コイツのー、今までの態度は!!」 「そうさ。コイツはずっと抵抗してきたけどな。だから、どうせなら打ち合いをさせようと、自分が誰だから分からなくなりー、俺と王の命令だけ聞くように置き換えたけど・・・。まったく、ここまで魔力があるとは。びっくりだよ、ルシファル」 「・・・貴様!!」 グラドは、とてつもない怒りに襲われていた。 グラドは素早く剣を引いた。そして柄の部分でルシファルを沈める。手荒かったが、「すまない」と言ってエミルへと向かう。 「俺を殺したいようだ」 「なにを笑っているのだエミル!」 両者は剣を構えたまま、睨みあった。エミルのほうは嘲笑が色濃く出ていたが。 「ホント、人の苦しむ姿は絶品だよ、グラド王子。面白かったなぁ、ルシファルを廃人にするのも、ティオくんの最愛の彼女を陥れるのも」 「貴様っっ」 グラドが刃を向ける。戦いが、始まった。 「ああ、ありました―ここですね」 黒スーツで固めた執事ジャックことモノと、フリルたっぷりのメイド服着用中のフェルガことエマニエル。 二人は外の内戦のせいで人気の少ない城をこそこそと歩いていた。 「こんなところにあいつの隠し部屋があったなんて」 そこは城の一番高い塔の裏扉にある部屋だった。怪しげな煙が立ちこめ、人体標本が散乱してあり、妙な悪臭が漂っていた。 「さて、探しますか。ここに必ずあるはずですよ、彼はこういうものを持ち歩くタイプではない、もしものときの為にね」 「あたしは右をやるから、あんたは左ね」 「はいはい、わかりましたよ」 いまいち緊張感が足りない二人であった。 二人だと、お互いを信頼はしているせいかもしれないが。 二人の戦いは、今尚続いていた。軍部のトップと二番目だ。互い互角に討ちあっていた。 エミルは余裕を顔に浮かべたまま、グラドに話しかけた。 「なあ、グラド。俺の本当の名前、教えてやろうか?」 「何を、ふざけた事を!!お前の名は、エミル・ハウストだろう!」 グラドは剣を交わしながら言った。 違うな。本当の名は、エミル・デス・ラ・ヴェザール・ハウスト」 「!!」グラドは一瞬動揺して、あやうく斬撃を食らう所だった。 「まったく、総括長がこんなことぐらいで、ホイホイ動揺してもらっちゃ困るぜ。だから弱いんだ、アンタは。兄弟の情なんて、下らない物持ってるから」 「・・・嘘に決まっている・・・。お前はまた、俺の心の隙を狙って!!」 グラドは剣を握りなおした。 その途端、エミルがう後ろから切りかかってきた。グラドがとっさに剣を受ける。 「嘘じゃないさ。俺は間違いなく、ヴェザール王が血を分けた息子。アンタの弟で、ティオールの兄さ」 「お前など一生・・・、兄弟とは思わん!」 グラドは後ろにかえり、エミルに向かっていった。 「この机・・・怪しいな」 エマニエルは机の何も変哲もない引き出しを、いじっていた。 「どれどれ・・・」 引き出しには、手紙や羽ペンなど、いたって平凡な物しかはいっていない。だが確かに、微かな魔力の圧が伝わってくる。 モノが奥に手を入れると、天板に、引き出しのストッパーのような円い突起があった。間違いない。これだ。 モノが数度つまみをひねり、何かを唱えると、手に、何かがポトンと落ちてきた。 「あたり、ですね」 それは小さな、赤い宝石のついた鍵だった。 エマニエルは目を輝かせた。 「よし!さっさとずらかるぞ!!」 「・・・いや」 モノの呟きにエマニエルは顔を曇らせた。とてつもなく嫌な予感がする。 「僕ねえ、興味わいてきちゃったんですよ・・・。この戦争のからくりと・・・、結末に」 「ハッハッハッ!そうだよなぁ、お前たち王族は俺を孤児院にいれて難民の子供として育てさせたくらいだもんなぁ!」 尚も攻撃は続く。エミルは挑戦的にグラドに挑んでいっていた。思いの強さが、グラドを押す。 「何を…わたしはそのようなこと!」 ガキンっ!刃と刃がぶつかり合う。グラドの顔面すんでのところでエミルの剣は止められた。 「知らなかったらそれで済むものなのか?知らなくてはいけないことなんだよ、おまえらがどれほど汚いか。どれだけの罪を被っているのかな!」 「あのカス男も笑えるよ―あれで一国の王なのか。笑えるな!俺を息子とも気づかずに、ましてや嵌められているとも気づかない!」 狂ったようにエミルは笑いながら剣を振るった。 素早く振り上げられる剣はどしりと重い。だがそれに押されっぱなしのグラドではなかった。 「何が目的だ。お前を認めさせることか?王族として!」 「―笑わせるな!認めてほしいだと?そんなことは0%も思っていない。ただ復讐してやりたいだけだ」 「っ!そもそも何故貴様は孤児院などへ」 エミルは鋭い瞳をグラドに向けた。 そして、真実を語りはじめる。 ←back/next→(novel top) (c)amazu&mizuki 2007 |