Land of Spiral [25]





「俺の母親は、王族から危険視された、異形の種族だった。北の森林に住まわされた、ロダージェというな」 グラドは心の中で、首をかしげた。そんな種族、聞いたことがない。
「当たり前だよ、知らなくてな。この話は、極秘機関の管轄で、王側近だけが知っている」
エミルは刀の柄に、力を込めた。グラドがじりじりと、押されていく。
「それだけでも、王族という奴らは腐っているというのに。・・・あのクソ爺は、俺らの親父はなあ、煩悩に負けて、権力を逆手に、俺の母親を押し倒した!!」
グラドは、エミルの剣を押し返した。エミルは一旦引いたが、すきを狙っているに違いない。
「ティオールも同じようなもんさ。ヴェザールは顔が好くて、女であれば、だれでもいいんだよ」
「・・・」
グラドはやりきれない気持ちになってきた。自分の父親が、そんな人間だなんて、思いたくない。
「それで、俺が生まれて、邪魔になったあの男は、俺を母親から引き離して、孤児院にやった。一応王子だ。殺すわけにも、いかなかったんだろうよ」
「アイツは、種族から俺が虐げられることを配慮して、人間の方に連れてきたんだろうさ。でもなあ!それはどちらでも同じことだったんだよ!!俺がこの髪の色、目の色で、どれだけ苦痛を受けたか!!」
エミルは、父親に怒りをぶつけるかのように、グラドに怒鳴った。
「・・・エミル・・・」
「そう・・・、その時母親がいてくれたら、俺はどんなに救われただろう。だから俺は、下から這い上がってきたんだよ!あの男を、ヴェザールを討つために!」
グラドは剣を下げた。そして、エミルに優しく、語り掛ける。
「・・・それなら・・・、私とお前が戦う意味はない。私は、この腐りかけた王族を、やり直すためにレジスタンスを起こしたのだ。どうだ。私と一緒に―」
「―ヴェザール王を討たないか」
エミルはハッとしたような顔になった。それからー、ゆっくりと、近づき、そして―、


「!」
グラドの腹には、エミルの剣が突き刺さっていた。
「やだね」
グラドがエミルを見ると、そこには冷酷な笑いしか、浮かべていなかった。
「アンタらも王族だろ?いい思いしかして来なかったボンボンに、国なんか変えられるか。どうせまた、腐るだけだ」
グラドが驚きの目でエミルを見つめていると、エミルは冷たく切り返した。
「驚いてる暇ないぜ。早く俺を倒さないと、アンタの兄弟―ルシファルもな―ホントに死ぬぞ?」
「やめろ―…」
グラド自身驚くほどにその声はかすれていた。血が止め処なく流れている。エミルの剣はグラドの腹を貫通していて、それをつたいエミルの手まで真っ赤に染まりつつある。
「いい様だ。お前はもうすぐ死ぬ―いや、止めを刺してやろう。俺なりのやさしさだ、なぁお兄ちゃん―――?」
もうグラドの意識は確かではない。だがどうにかその場に立っていた。しかしもう剣を振るう力が残っていない。
「無様な」
弱っていく彼をみて面白そうにエミルが笑みをうかべている。
そして、ざっと剣を抜いた。辺りに血飛沫が飛び、それはそばに倒れるティオにも降りかかり、服に斑点を作った。
「兄さん…やめろ…やめるんだエミル」
かろうじて顔をあげるティオ。エミルは汚いものを見るような目で一瞥し、「雑魚は黙っていろ。こいつが終わったら相手してやるよ」と吐く。
「うっ……やめろ!」
「まったく耳障りな」
やれやれというように床に倒れるティオにおもむろに近づくと、思い切り軍のブーツで彼の腹を蹴り上げた。
「ごぼっっ!」
ティオはの立ち回る。そんな彼を見もせずに、息も荒げに膝をつくグラドの元に戻った。
「さあ、お別れですね。うれしくて涙が出そうだ」
「………っ」
グラドは何かをいいたい様子を見せたが、最早そんな力もないようで、残された力でエミルに必至に顔を向けていた。
「哀れだなぁ」
剣を宙に上げる。
その血にまみれた刃は、再びグラドへ向かう―――グラドは、目を瞑った。ここまできてしまったら、覚悟を決めるしかない。
「なに、を……」
グラドを待つのは死ではなかった。刃の変わりに、驚きで声が裏返る、エミルの声が降ってきた。
―何が、起こったというのだ―?
目をゆっくりとあげて行くと目に入ったのは、剣を持っているままのエミルと、エミルに突き刺さる剣―あの形は、ティオのものだ―。
エミルは状況が旨く飲み込めないというように、信じられないといった風で自分の腹を見た。
「け、けけけけけ剣………!!!」
そしてそこから流れる血は、赤い吹き溜まりを作り始めていた。グラドのとまざり、部屋は真っ赤である。
そしてエミルは後ろを振り返った。顔は恐怖ともつかぬ引きつった笑みが浮かんでいる。そして背後に居たのは、―彼の、憎き兄弟。
と、
「わたしがやりましたら死刑は決定ですので、お手伝いをさせて頂きましたよ」
一人の、執事。とメイド。











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