Land of Spiral [26]





ティオはその執事に支えられれやっと立っている。恐らく最大限の力をふりしぼって剣を刺したのだろう。メイドのほうはというとエミルをみて勝ち誇った笑みをたたえていた。
「金のない男はただの役立たず。―よくもあたしをただ働きさせてくれたわ」
「お前……そんな口を利いてもいいのか。おまえの命は俺が握っているのだぞ」
「ほおう。いまもか?」
「・・・何だと?」エミルは、真紅の瞳をエマニエルに向けた。
「これでしょう?爆弾のスイッチ」兵士が手に持っていたそれは、赤い宝石のついた、小さな鍵だった。
「・・・貴様ぁ!!」エミルは腹から剣を抜き、モノに襲い掛かろうとした。
だがそれも、エマニエルの炎の一撃によって、さえぎられた。
「まだそれだけの力があるなんて、素晴らしいですね、エミルさん」
モノはにっこりと笑った。エミルは怒りに燃えていたが、最早動く力は残っていなかった。
「フフ・・・、フハハハハハハハハハハ!!」
エミルの狂気じみた笑いが、部屋中に響き渡った。やがてエミルは力尽きると、その場に倒れた。
「・・・モノ・・・、ありがとう」ティオールはモノの、癒しの光―、神光をうけながら、礼を述べた。
「いえいえ、おかまいなく。ついでに寄っただけですから」モノはいつもの通りに笑った。
―全く・・・、この男はやはりつかめない。ティオは笑ってため息をついた。
「・・・で、コイツどうすんのさ」エマニエルは、グラドとルシファルに神光をかけながら、倒れたエミルを見ていった。
「・・・生きて捕らえる。生きてその罪を、補うべきだ」ティオはつぶやいた。
「そうですか・・・」
その時、壁をぶち破る音が、部屋にひびいた。皆がふり返ると、そこには―
「ケイージャ!!」
「ちょっと派手にやりすぎてしまったかのう・・・?」
そこにはケイージャが、奇妙な手足のついたロボットに乗って、頭をポリポリ掻いていた。
「派手にやられおったなあ、全く。これでも飲みい」ケイージャが瓶を、こちらに向けて、投げてきた。
「・・・これは?」
「回復薬じゃ。一口飲めば、すぐ直る」
「なんでここに?」
ティオが聞くと、ケイージャは呑気に言った。
「お前がレジスタンスに入ったというのは、とうに知っているわい。城で爆撃は起きるしな。・・・ティオ、お前は王族にしては、とてもよい思考の持ち主じゃ。みすみす殺すのはもったいない」
ティオとグラドは、事の一件を、三人に話して聞かせた。
「ヴェザール国がそこまでとはなあ。こちらもびっくりじゃ」ケイージャがひげをいじりながら言った。
「アタシやコイツを使ってるんだ。腐ってるに決まってるよ」エマニエルはちらりと、エミルを見やった。
「となると・・・、ここまで来て王が出てこないのは・・・変ですね」
「・・・ああ」グラドもモノにうなずいた。
「・・・ところでケイージャ、兄貴の、ルシファルのことなんだが・・・」
ティオが口を開いた。
「・・・記憶操作を精密にできるほど、わしの研究はできておらん。
かといって、このままにしておけば、またお前さんたちをきりつけるじゃろう」
「今できるのは、記憶を消去して、支障をおよぼさないようにすることじゃ」
「幸い、生活に必要な記憶の部分と、思い出の部分とは、区別ができる。普通に生活はできるじゃろう」
「・・・そうとはいえ・・・」グラドも、悲しみの色を隠せなかった。
皆消えるのだ。これまでの、自分と過ごした時間も。
「・・・兄さん!」
その時、心の奥で、何かどす黒いものが、沸きあがってきた。
その、白い髪の男を見やった。男は今だ、床にふせっている。
あの、快楽に満ちた、薄汚い、不気味な笑顔。
気がつけばティオは、男に刃を向け、グラドに抑えられていた。
「やめろ!ティオ!お前も言っていたろう!コイツは生きて、この罪を償うべきだと!」
「・・・でもっ、でも、兄さ・・・」
「考えてもみろ!ルシファルがこんな事をして、喜ぶと思うのか!!」
ティオは、剣を握る手を緩めた。替わりに目から、涙がこぼれ出た。











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