Land of Spiral [28] 「ティオ、モノ・・そこにいるのか」 「ええ」 「ああ、いる。―いったいどうなってるんだ!」 しばらくして闇が引いていくのがわかった。白い壁が姿を現しだす。 完全に視覚がもどったあと、そこにはもう王の姿はなかった。かわりにいたのは剣を構え、四方八方に散らばる兵士達だ。 攻撃態勢は整っている。いまにも三人を殺しにかかりそうだった。 三人は、死を覚悟した。 「攻撃、用意」 「殺っ「待ちな―」 突如現れた声は女のものだった。 どよめく。 「―エマ、ニエル…」 「このヨボヨボ爺、拾っておいたけど。―もちろん、金は請求するよ」 エマニエルの右手に引きずられて、ウェザール王はぐったりとしていた。 「・・・まったく、素直じゃないですね・・・」モノは呆れ顔で言った。 「何に素直になるって言うんだよ、ほら、手え貸しな!ティオール、アンタもだよ。魔法使えるんだろ」 ティオールはエマニエルに引っ張られて、とまどいながら出てきた。 「・・・なにをする気なんだ?」 「決まってんだろ。そこらの兵士、ねむらせんだよ。それとも何だ、こんな量の兵士、対処できるってんのか?」 ティオはあわてて首を横に振った。「それなら、これしかないだろ。手えあわせな」 二人は言われるままに、手を重ねあわせた。「グラド、あたしらがやってる間、防御やってろよ」 「あ・・・、ああ」グラドがかまえると、周りの兵士もハッとし、襲い掛かってきた。 「アタシに続けて詠唱しな!“瞳の民よ!人々を揺り篭へと誘い、癒しの歌を聞かせよ!”」 「「瞳の民よ!人々を揺り篭へと誘い、癒しの歌を聞かせよ!」」 三人の手から白い光が上がった。その圧力に押されながらも、三人は唱え続ける。 “戦場に一時の安らぎを与え、沈黙の羊戯れん事を!それを我、願う者なり!”」 「「戦場に一時の安らぎを与え、沈黙の羊戯れん事を!それを我、願う者なり!」」 風が巻き起こる。グラドが防がんとも、兵士達は近づくことはできなかった。 「「「春眠風羊!」」」 閃光が走った。光につつまれて、三人は何が起こったのか、しばらくわからなかった。 「・・・・・・成功、ですね・・・・・・」モノは小さく、つぶやいた。 「・・・・・・ああ」ティオは呆けた顔で、周囲を見回していた。 兵士達は倒れ、一人残らず、眠っていた。 「何だよ、この魔法・・・。詠唱時に周囲の人間、風で飛ばしちまうじゃないか」エマニエルが呆れ顔で言った。 「使ったこと、なかったんですか・・・?」 「ああ、一か八かだ」成功したんだからいいだろ、と、エマニエルはこともなげに言った。 「・・・ほう、まさか、ここまでの威力とはな・・・」 「・・・なっ」ティオが、声のした方に顔を向けた。先程の風で、少し遠くに飛ばされたグラドも、立ち上がってそちらを見る。 先程までエマニエルに捕らえられ、ぐったりしていたヴェザール王は、息を荒げ、渾身の力で、かろうじて肩ひざをついていた。 「・・・ふふふ、楽しませてもらったぞ。・・・お前達は人間にしては、なかなか面白い」 「そんな口を利いていられるのも、今のうちだ。ヴェザール」ティオールは剣を抜いた。だが、ヴェザール王は、まだ笑っている。 「・・・悪いな、ティオール。私はまだ、死ぬわけにはいかんのだよamazu37 (2007/04/22 16:21:47): 」 王はそういうと、懐から小瓶を出し、それを飲んだ。モノが気づいた時には、もう遅かった。ヴェザール王の体はぼやけ、やがて形を失い、紫色の霧となった。 “―さらばだ、息子達よ―、また、私を喜ばせてくれる日を、楽しみにしてるぞ―” 「・・・くそっ!」ティオールは地面を殴った。 「・・・ッチ、せっかくの賞金首が、いなくなっちまった!」 エマニエルも別の意味で、苛立っていた。 「さて…どうするか…」 本来の目的であったウェザール王の王位剥奪は、本人の逃亡によりあやふたになってしまった。 「上手く逃げられてしまいましたね」 「……あいつを討つことは出来なかったが、もう何かをする力は残っていないだろう」 訪れたのは、奇妙な静けさだった。 全てが終わったような、また何か始まりつつあるような―… 「…疲れたな」 「またあたしはただ働きかよ」 「―とにかく、終わったな」 「ああ」 「そうだね」 「ですね」 グラドは決意しなおした、ウェザールを、立て直さねばと。横にいる弟の顔をちらりとみる。いまだかつて見たことのない、りりしい顔がそこにあった。 この国はいま一度死んだ。 ――これからが、大変だ。 どこか清清しい気持ちが四人の中をとおり抜けていった。 内戦、終結。 ←back/next→(novel top) (c)amazu&mizuki 2007 |